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日本で普及しているスギ、ヒノキ、カラマツといった木材は、伐期を迎えるまでにかなりの年月が必要です。
中には、40〜60年近くたたなければ伐期を迎えられない樹種も多く、用材として利用するのに長い年月がかかることが課題となっていました。
これに対し、最近注目され始めた「早生樹」なら、約10〜25年程度の短い期間で伐期を迎えるとご存じでしょうか。
本記事では、再造林の代替として期待されている「早生樹」の魅力を詳しく解説します。
また、早生樹として注目されている木材や早生樹を普及する課題も紹介するので、魅力的な木材の特徴を理解していきましょう。
目次
早生樹とは、文字通り早く成長する樹木のことです。国内で利用されているスギ、ヒノキ、カラマツといった針葉樹よりも短期間で伐期を迎えられること、そして同等の強度であることから、近年、針葉樹の代替として注目されています。
早生樹が必要とされ出したのは、次の理由が関係しています。
国内に植えられている樹木の多くは、スギ・ヒノキ・カラマツですが、早生樹は、これら樹木よりも2倍近いペースで植樹・伐採が行えます。保育コスト削減ができることはもちろん、木材の供給量を増やせることから、木材の生産・囲う・流通の促進を目標とする「SDGs」の取り組みとして関心が集まっています。
早生樹には、次のような種類があります。
その中でも、国内で注目されているのが「センダン」「コウヨウザン」です。ここでは、それぞれの早生樹の特徴をご紹介します。
センダンとは、北海道を除く日本全域、中国、台湾などに分布する早生樹です。ケヤキやキリの材質に似ており、枝を四方に広げながら成長し、約20〜30年程度で伐採できます。
センダンは、古くから家具用材として利用されており、早生樹として注目されてからは、建築材・造作材といった用途での研究が行われています。また、熊本県を中心に植樹が行われており、年間約4万本の苗木が植えられている状況です。ただし、山岳地帯といった斜面よりも平地での生育が良好であるため、山岳地帯の割合が多い日本では植樹エリアが限定されます。
コウヨウザンとは、本州伊豆半島以西の地域、中国などに分布する常緑針葉樹です。スギに似てまっすぐ生えるのが特徴であり、約20〜30年程度で伐採できます。
中国ではすでに大量に植樹されている樹木であり、合板用のベニヤ板などに利用されています。また、広島県では積極的に植栽を行っており、年間約10万本の苗木が栽培されている状況です。ただし、雪害や乾燥害などの環境要因で枯死に至るケースがあるため、維持管理にコストがかかります。
早生樹の利用には、次の3つの魅力があります。
早生樹は、日本の主な造林樹種よりも短期間で伐採できるのが魅力です。スギ、ヒノキ、カラマツといった樹種と比較すると、以下の表になります。
【主な造林樹種】
樹種 | 伐期 |
---|---|
スギ | おおむね35~50年 |
ヒノキ | おおむね45~60年 |
カラマツ | おおむね30~40年 |
【早生樹】
樹種 | 伐期 |
---|---|
センダン | おおむね20~30年 |
コウヨウザン | おおむね20~30年 |
早生樹は現在の主な造林樹種よりも、1.5~2.0倍近いスピードで伐期を迎えます。樹木の伐採頻度を高められることから、国内で生産できる木材数を増加できるのが魅力です。
早生樹は、スギ、ヒノキ、カラマツといった主な造林樹種と同等の強度を発揮できるのが魅力です。
出典:森林総合研究所 早生樹コウヨウザンの基準強度はアカマツ同等 今後の建築利用に期待
コウヨウザンは日本で積極的に造林されてないため、木材として利用されてきた歴史が浅く、現在は基準強度の対象外です。しかし、森林総合研究所の調査では、コウヨウザンの曲げ強さ(荷重をかけて材を曲げていき、破壊に至った時点での最大応力)は、アカマツの基準強度に匹敵するほか、縦圧縮強度は、スギ・ヒノキ・カラマツの基準値を上回ることが確認されています。しかし、スギなどの基準強度を下回る調査項目も存在するため、更なる研究・検証を進めていく必要があります。
現在の日本は、国内で流通している木材のほとんどを海外から輸入しています。しかし、次の理由から、建築や林業の関係者に大きな負担がかかっている状況です。
まず、2020年末から2022年にかけて、世界経済の変化を要因としたウッドショックの影響により、木材輸入価格が高騰していました。現在では、すでにウッドショックが終了したと見立てられていますが、緩やかな回復であるため、まだ一定期間は、木材の輸入価格が高騰した状態と予想されます。
出典:経済産業省 どうなったウッドショック;価格の高止まりが需要を抑制?
また、2017年5月より、国内で違法伐採を取り締まる法律が施行されました。現状のところ「努力義務」という位置づけで罰則などはありませんが、今後海外から木材を輸入する際の取り締めが厳しくなると予想されます。
これに対し、早生樹の生産を開始できれば、現在の主な造林樹種以外の樹種で本格的な国内生産が可能となります。輸入材の供給が不安定になる可能性がある中で、国内で流通できるようになることから、短い期間で伐期を迎えられる早生樹に注目が集まっているのです。
早生樹は、短期間で伐期を迎えますが、まだ注目され始めたばかりの樹木なので、普及には以下の課題が残っています。
早生樹の普及を左右するポイントです。どういった課題があるのか、ぜひ理解しておきましょう。
早生樹は、まだ研究・調査が始まって間もない樹木です。2020年に入ってから研究が開始されているため、新しく植樹された苗木が伐期を迎えるまでに、まだ時間がかかります。また、研究成果をもとに植樹・伐採が普及していくことから、一般化するのは最低でも30年以上かかると理解しておきましょう。
センダンは、まっすぐ幹が伸びないこと、幹から広い角度で枝分かれするのが特徴です。センダンから通直な材を得るには、芽かき(頂芽以外の芽をすべて取り除くこと)と枝打ちを適切に行う必要があります。また、コウヨウザンも陰樹であることから、水はけの悪い場所で生育しにくいといった特徴をもっています。
センダンは、養分・水分に富む土地でないと十分に生育しません。また、自生地は暖帯であるため、冬の凍害への耐性が低いです。斜面下部や平地では成長が早いのに対し、斜面中部〜上部では成長がかなり遅くなってしまいます。このため、植栽に適した場所を慎重に検討する必要があります。
一方コウヨウザンは、日本全国で幅広く植栽が試みられています。しかし、植栽地環境の分析を行ったところ、植栽地に適しているのは照葉樹林帯であり、年平均気温12℃以上、暖かさの指数90℃・月以上、寒さの指数-15℃・月以上の地域が良いことが分かりました。
参考:コウヨウザンのそもそもと研究の現状|国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センター
早生樹は、まだ研究段階の樹木で、普及率を高めるためには時間がかかります。
ただし、短い期間で伐期を迎えられることから、本格的な普及の可能性を秘めています。そこで最後に、早生樹の最新動向を探る2つの方法をご紹介します。
日本木材加工技術協会では、日々、木材加工に関する講演会や最新情報の発信が行われています。機関誌や出版物もチェックできるため、定期的に閲覧し、早生樹の動向を探ってみてはいかがでしょうか。
日本木材学会では、木材に関する最新情報の発信が行われています。過去には「国産早生樹(新)時代に向けた材質研究」なども実施されており、木材資源を使った情報をすぐにチェックできます。
刊行物の種類も豊富で、定期購読することにより、早生樹に関する情報を入手できるでしょう。
国内林業の衰退、そして海外輸入する木材の価格高騰など、日本の林業は今、さまざまな問題に迫られています。そういった中、現在の主な造林樹種と同程度の強度を持ち、約10〜25年で伐期を迎える「早生樹」が課題を解決できると注目を集めています。
まだ研究段階の樹木ですが、すでに海外では、建材・造作材など幅広い用途で利用されている状況です。今後、研究が進むにつれて、針葉樹に代わる新たな樹木として期待が寄せられていますので、この機会にぜひ早生樹の情報をチェックしてみてください。
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