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山林で生産された原木は、板材や角材に加工されて木から木材になりますが、その後どのようなルートを経て私たちの手元に届くのでしょう。
木材流通を知る2回シリーズの2回目である本記事は、川中の林産業に供給された原木が加工され、川下の住宅メーカーや工務店に供給されるまでの流れが分かる内容です。
加工工場の種類や作業内容、流通ルートの変化やその原因などを解説するので、木材流通を理解する一助にしてください。
目次
山林の立木が住宅や家具などの最終製品になって私たちの手に届くまでには、多くの人の手が介在しています。
国内における一般的な木材流通は、川上の林業、川中の林産業、川下の実需者・消費者を順に経由します。それぞれの段階が担う役割は、次の通りです。
このほかに、川上と川中、川中と川下をつなぐ流通業者も存在しており、国内の木材流通は複雑な仕組みになっています。また、近年はこれまでの流通経路に当てはまらないルートも増加しています。
木材流通の川中は、川上の林業から入荷した原木を加工して製材品や木質材料を生産する「林産業」を指します。
山林から切り出された丸太がそのまま利用されることは稀で、たいていは製材工場で角材や板材に加工され、さらに必要に応じて、集成材や合板に二次加工されます。近年は、住宅用の木材を、現場施工前に工場で加工して部材にまで仕上げるプレカット加工も盛んです。
このように、木材加工を担う製材工場以降の産業を「林産業」といいます。主要なプレーヤーである製材・集成材・合板・プレカット工場について、具体的に説明していきます。
山林から伐出された丸太で角材や板材を作る作業を「製材」、生産した材を「製材品」と呼びます。近年、製材工場は大規模化、作業の全自動化が進んでいます。
基本的に、丸太の樹皮を剥ぐ剥皮、一本の丸太の製材の仕方を決める木取り、実際に切っていく製材(粗挽き)の順に進みます。木目、節の位置、空洞の有無などがそれぞれ異なる丸太の特徴を見抜き、製材品の品質を最大限に引き上げるよう切り分けるのが、製材の技術です。
製材後の木材は寸法・品質などの規格に基づいて選別され、乾燥工程に入ります。昨今の木造住宅建設では、短い工期やプレカット加工が求められるため、天然乾燥よりも短時間で高い寸法精度が得られる人工乾燥が主流です。
製材品を加工して集成材や合板などの木質材料を生産するのも、川中の林産業の一部です。これらの木質材料は、品質のばらつきや低い寸法精度など無垢材の欠点を補うものとして普及してきました。
特に、木造住宅の工法の変化によって、建築材料は無垢材から集成材・合板などに置き換わってきています。例えば、高い寸法精度を求めて構造用部材には集成材が、耐震性や施工性を求めて屋根・壁の下地材には厚物合板が使われることが主流になっています。製材以降の二次加工は、近年の木材利用を支える重要な工程といえるでしょう。
木造建築において、かつては大工が現場で手刻みしていた継手や仕口を、施工前に工場の機械で行うのがプレカット加工です。
1980年代半ばには、コンピューター制御の自動化ラインが開発され、生産能力と加工精度が大きく向上しました。同時に、機械加工には均質で高精度の材料が必要とされ、無垢材よりも集成材の需要が高まる結果にもつながっています。
プレカット加工の普及によって、木造建築の現場では、工場で加工済みの部材を組み上げる作業が中心となりました。天気や大工の技術力に進捗が左右されないため、作業効率や施工精度が高まるメリットがある一方で、木を使いこなす大工の技が失われつつあることを危惧する声もあります。
川中の林産業で生産された製材品や木質材料は、それらを材料として使う家具・住宅メーカー、工務店、大工などの実需者に供給されます。そして、実需者が生産した家具や住宅を消費者が利用するのです。材料として木材を必要とする需要者と実際に木材製品を使う最終消費者を、木材流通では川下に分類します。
川中から川下への流通を担っているのが、製品市場、問屋、材木店などの流通業者です。
近年は、流通業者を通さずに、実需者が部材を直接仕入れるパターンも出てきています。次の章では、変わりつつある川中以降の流通ルートと変化の理由を解説します。
従来、川上で生産された原木は川中で製材品や木質材料加工された後、製品市場や問屋などの流通業者を通して、川下の実需者に販売されるのが一般的でした。近年その流れが変化しており、製品市場を通さない取引も増加しています。
製品市場を介さない取引が増えている大きな理由は、プレカット加工の普及だといわれています。また、川上から川下まで一貫して担う組織の出現も一因として挙げられます。さらに、山林の現場から最終消費者まで、顔の見える取引を目指す動きも出てきています。
川中から川下への木材流通を変化させているそれぞれの要因を、具体的に見ていきましょう。
製品市場を通さない流通が増えた大きな理由は、木造住宅の部材加工が大工の手仕事からプレカット加工に置き換わったことです。木造軸組構法のプレカット加工率は、2021年に94.1%まで高まっています。
自動化ラインによって生産能力が大幅に向上し取扱量が増加、大規模化したプレカット工場は、製材工場から直接木材を仕入れ、住宅メーカーに直接販売するようになりました。規格通りに安定的に生産されるプレカット材は、品質や在庫調整を担う流通業者の必要性が低く、住宅メーカーがプレカット工場に直接発注しやすいという側面もあります。木材加工だけでなく流通も担うプレカット工場は、川中から川下への製品流通の核になっています。
森林組合が製材業に事業の幅を広げたり、製材業者が林業に参入したりするなど、原木生産から製品生産・販売までを一貫して手掛ける動きも、木材流通を変える一因です。
製材工場の中には、安定した原木調達のために森林を取得して原木生産を行ったり、森林経営を受託したりする事業体があります。
また、林業を担う森林組合が製材業や木材加工業に進出し、工務店などから木材製品の発注を直接受けるケースも見られます。
川上から川下まで一貫して行うことで、流通コスト削減や品質向上、安定供給が期待できるのです。また、川下の需要を細かく把握しやすいため、計画的な原木生産、ひいては持続的な森林経営が可能になると考えられます。
川上から川下までの関係者が連携し、地域の生産者と消費者をつなぐ木材流通のあり方も近年注目されています。農産物ではよく聞かれる「地産地消」の考え方を、木材にも適用した形です。地域材利用の拡大を目指して、全国木材組合連合会が実施する「顔の見える木材での快適空間づくり事業」には、多数の団体が参加しています。
生産者の顔が見えると消費者の安心感や満足感は高まり、地域の森林資源への関心を高めることにもつながるでしょう。また、輸送距離の短縮は環境負荷の軽減にも貢献します。
SDGsへの関心が高まる中、効率化やコストカットといったキーワードとは一線を画した、新しい時代の木材流通を模索する動きといえます。
川中で加工された木材が、川下の需要者の手で最終製品になり、ようやく私たち消費者の元に届きます。山林を起点とする川上からの流れを考えると、多くの時間と手間がかかっていることが分かるでしょう。
近年は、木材加工工場の大規模化や各事業体が担う範囲の拡大によって、川中から川下への製品流通も効率的な方向に変化しつつあります。一方で、生産者と消費者お互いの顔が見える木材流通の模索は、林業や地域社会の活性化、環境負荷の低減を主眼に置いた新しい試みです。
国内の森林資源を有効活用する必要性が高まっている現代の時代背景に合わせて、木材流通も変化していくものと考えられます。
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