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建築法制度の憲法と言える建築基準法は1950年に制定されました。同法は時代の変化に呼応し、制定以来数次にわたる改正が行われています。改正によって3000㎡を超える大規模木造建築物での「あらわし」設計が可能となり、別棟解釈の導入によって低層階の木造化が可能になるなど、防火規制の合理化が図られます。
要は、建築物を木造にしやすくするようになるわけです。
日本はかつて、建築物の不燃化や防災懸念の観点から木造建築が事実上締め出される時期がありました。しかし2010年の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の施行により、今度は国を上げて木材の利用促進に舵を切ることになります。
目次
前回、建築物省エネ法が改正され、2025年4月からすべての建築物で省エネ基準適合が義務化されることを解説しました。
この改正では建築物等における木材の活用が盛り込まれまれています。同法で木材活用の重要性が明記されたのは初めてで、非常に画期的なことだといえるでしょう。これらは、木材需要の約4割を占める建築分野で木材利用促進を打ち出し、大規模建築での積極的な木材利用を目指したものです。
また、同法の改正に連動して複数の建築法制度も改正されます。
建築物等の木造・木質化が重視される背景には、地球規模の気候変動問題への対策が大きく関係しています。すなわち、地球温暖化をもたらす原因の一つが二酸化炭素の増大にあります。木材には以下のような役割をもっています。
先進国では、地球の気候変動問題において森林と木材製品が果たす役割を共通で認識しており、中大規模木造建築の推進という形で表われています。
建築法制度改正で印象に残るものとして、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)後の1999年の「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)」の制定があります。住宅性能表示制度が導入され、それまで仕様規定を設計の基本としていた建築基準法に性能規定が導入(2000年)されました。
また、例外的に規定されていた38条認定が廃止されたこと、2005年に起きた構造計算書偽装事件(姉歯事件)を契機に実施された2007年の同法厳格化で、構造計算適合判定制度が創設されたことなども印象に残ります。
直近では、戦後半世紀にわたり非住宅建築で木造が締め出されてきた歴史が2010年、「公共建築物等の木材利用促進法」が制定されたことにより、国が率先して公共建築物に木材を活用するとの方針が示されたことも記憶に残るものです。
太平洋戦争における日本本土空襲で都市部の建築物等は壊滅的な被災を経験しました。さらに、避けることができない大地震、台風等の風水害も戦後の建築物への考え方に強く影響するようになります。終戦から5年後の1950年に制定された建築基準法は、一般住宅を除き木造による建築が困難な時代でした。
戦時供出等もあり国産材資源が激減する一方、膨大な戦後復興需要が起き、国産材を原材料とした建築用木材製品が決定的に不足しました。そのことによって木材価格の高騰が起きます。需要の急増に伴う木材価格の高騰等に対応するため、政府は1961年に「木材価格安定緊急対策」を決定し、国内の森林の緊急増伐等とともに、木材輸入の拡大を推進することとなりました。
また「貿易・為替自由化計画大綱」(1960年)等に基づき、木材の輸入自由化が段階的に実施されました。戦後、外貨規制により海外産木材輸入は制限されていましたが、木材輸入自由化により、本格的な外国産木材輸入時代を迎えます。
後述しますが、この当時の建築材用木材製品不足も木造建築を抑制する一因となりました。
1950年、衆議院で都市建築物の不燃化の促進に関する決議が行われ、翌年には都市建築物等の耐火構造化と木材消費の抑制が閣議決定されました。1955年には国・地方公共団体が率先して建築物の不燃化を促進する閣議決定しました。これらの決議や閣議決定を背景に、公共建築物から木造が消えます。
そして1959年には大きな被害を出した伊勢湾台風も踏まえ、日本建築学会が建築防災に関する決議を出し、木造の禁止とRC造の推進を提言しました。こうした戦後の建築に対する考え方が大きく影響して日本の木造建築は決定的に停滞し、一般的な木造住宅を除き木造建築物は事実上締め出されることになりました。その結果、国や地方公共団体の公共建築を所管する営繕部署からは仕様、積算等の木造建築の知見が失われていきます。
2010年10月、公共建築物等の木材利用促進法(公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律)が施行されました。この法律を受けて、国は「低層の公共建築物は原則的にすべて木造としなければならない」との方針を定め、以下の2点の考えを示しました。
低層とは3階建て以下を指し、国だけでなく地方公共団体が直接建設する施設、さらに国や地方公共団体の補助を受けて建設する建物もこの法律の対象となります。
この法律が施行されて10年余りが経過しました。2020年度の公共建築物床面積は1,172万㎡で木造率は13.9%(163万㎡)、このうち低層(3階建て以下)の公共建築物床面積は457万㎡で木造率は29.7%(136万㎡)。年度によって増減はありますが法施工以降、着実に木造率が伸びています。
同法の施行に伴い国土交通省営繕部に「木造計画・設計基準」検討委員会が設置されました。国が建てる建築物全般に対する設計基準があります。しかしながら50年にわたり、公共建築物の木造は事実上行われてこなかったことから、RC造、S造を想定した設計基準(建築設計基準、建築構造設計基準、建築設備設計基準)しかなく、木造建築物用の計画と設計の基準を作成することになりました。
木造計画・設計基準ではJAS認定を基本としており、木質系材料に関する詳細が規定されています。下記を参照してください。
なお、営繕部の基準ではRC造、S造の工事仕様書は公共建築工事標準仕様書、木造は木造建築工事標準仕様書となっています。
2021年10月、公共建築物等の木材利用促進法が改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(都市(まち)の木造化推進法)が施行されました。
大きな変更点として、基本方針の対象が公共建築物から民間建築物を含む建築物一般に拡大されました。また、基本理念が新設され、木材利用の促進が明確に打ち出されました。
同法の目的として脱炭素社会の実現に資することが追記されました。同法の円滑な推進に向けて、農林水産省内に木材利用促進本部が設置され、農林水産大臣を本部長に、総務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣等が本部員として省庁横断で取り組んでいきます。
基本理念に木材利用の促進が明記されていますが、森林循環(造林→伐採→木材利用→再造林)を通じて二酸化炭素吸収作用を強化し、脱炭素社会の実現に貢献することを最も重要な目的としています。
同時に戦後植林された国内の人工林資源が本格的な利用期を迎えており、重要な天然資源である森林資源を活用していくことを目指しています。同法では建築物木材利用促進協定を新設し、協定を締結した事業者等への支援も行われます。既に複数の事業者が国や地方公共団体との間で協定を締結しています。
戦後の木造建築を巡る国等の考え方はこのように大きく変化しています。近年、木造中高層建築や大規模床面積の木造建築が増えていますが、国等のこうした考え方を反映したもので、建築法制度もこれと連動して規制緩和されています。
木造建築物に関する建築基準法改正に関する過去の変遷は次の通りです。
年代 | 建築基準法における防火・避難関係規定 |
1987年 | 燃えしろ設計の導入 |
1992年 | 準耐火構造を新たに定義 |
1998年 | 木造による耐火構造の実現を可能 |
2004年 | 木造の外壁・軒裏を防火構造の告示仕様に追加 |
2014年 | 一定基準を満たす木造3階建て学校等を可能 |
1987年、火災によって柱・梁の断面が一部欠損しても構造耐力を確保できる大断面木造建築物による設計方法、いわゆる「燃えしろ設計」が導入されました。1992年、木造であっても、防火被覆などによって耐火構造に準ずる性能を実現できることが技術的に検証できたことを踏まえ、「火災による延焼を抑制する性能」を有するものを「準耐火構造」として新たに定義し、木材の利用可能性を拡大(性能規定化の導入)しました。
1991年12月の実大火災実験等の知見に基づき、防火地域・準防火地域で1時間準耐火構造の木造3階建て共同住宅を可能としました。1998年、さらなる性能規定化により、木造による耐火構造の実現を可能としました。
2004年、伝統的構法で用いられる木造の外壁・軒裏を防火構造の告示仕様に追加しました。2014年、実大実験等の知見に基づき、一定の基準を満たす木造3階建て学校等を可能としました。
ここからが木造防火規制の合理化(=規制緩和)に関する新たな建築基準法上の改正です。2024年4月の施行を予定しています。木造建築の防火規制合理化については上述したようにこれまでも進められています。
2024年4月の改正では、引き続き中大規模木造建築で木質部系建築材料を積極的に使っていくことを念頭に、燃えしろ設計法、分棟による別棟扱い等の考え方を取り入れた規制緩和を計画しています。
3,000㎡超の大規模木造建築物について、現行は、「壁・柱等を耐火構造にする」あるいは「3,000㎡毎に耐火構造で区画する」設計方法しか木造化を図る術はありませんでした。改正後は構造部材をあえて露出させる「あらわし」による設計を可能にする構造方法が導入され、さらに防火上・避難上、支障がない範囲で部分的な木造化が可能となります。
防火規定上の別棟扱いも改正されます。現行は低層部についても、高層部と一体的に防火規制を適用し、建築物全体に耐火性能を要求しています。しかし、改正後は高い耐火性能の壁等や離隔距離を有する渡り廊下で分棟的に区画された高層部・低層部をそれぞれ防火規定上の別棟として扱うことで、低層部分の木造化を可能とします。
現行、木造部分と一体で耐火構造または準耐火構造の部分を計画する場合、耐火・準耐火構造部分にも防火壁の設置が求められていますが、改正後は他の部分と防火壁で画された1,000㎡超の耐火・準耐火構造部分には、防火壁の設置は必要なくなります。
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