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2024.10.10
近年、脱炭素に向けた取り組みが加速化する中、建設や不動産業界では、木造建築の注目度が高まっています。そこで課題となるのは、木材の耐火性です。昨今では、大手ゼネコンを中心に、火災時の熱から守ることができる耐火性能を持った耐火木材の開発が進んでおり、中高層木造ビルの建設などに活用されています。本記事では、耐火木材の基本や木造建築の耐火基準の解説に加え、耐火木材を活用した高層建築物の実例も紹介します。
目次
耐火木材とは、難燃処理を施した燃えにくい木材のことです。火災時の燃え広がりを遅らせ、内部の構造を一定時間を維持するよう加工されています。非住宅分野で建物の木造化が注目される中で、耐火木材は都市部を中心とした大規模建築物の建設などで活用され、木造の耐火建築物の実現に貢献しています。
耐火性能を持つ耐火木材を建築物に使用することで、主に次の3つのメリットが期待されます。
木材を活用することで、脱炭素効果が見込まれ、環境負荷の削減につながります。木材は持続的に再生産ができるほか、長期にわたって二酸化炭素の固定が可能です。また、鉄骨や鉄筋コンクリート(RC)と比較しても、環境負荷が低い材料のため、製造や加工、建設の各段階においても、CO2排出量の削減に役立ちます。
耐火木材という耐火仕様の木造技術を活用することで、木造による高層建築物を建てることができます。性能は各社が開発する素材によって異なります。耐火木材は大規模建築物への対応が可能なほか、高層建築物の一部に組み合わせることができるため、木造耐火建築の幅が格段に広がりました。
耐火木材は、国産木材を材料とする製品も多いため、国産材の需要創出に寄与し、国内林業の活性化への支援にもつながります。2021年には、民間建築物の木造化などを促す「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の促進に関する法律」が改正・施行されるなど、国としても国産木材の活用促進を進めています。
建築物に耐火木材を使用するメリットがある一方で、鉄筋コンクリート構造(RC造)と比較すると建設コストがかかるというデメリットもあります。今後はいかにコストダウンできるかどうかが課題です。現状は各社で技術開発が進められているため、建築物によって使用する部材が特注品となることも多いです。低コスト化に向けては、それぞれの部材の標準化を進めていく必要があります。
耐火木材を活用するには、耐火建築物の定義や基準などを正しく理解する必要があります。ここでは「建築基準法」によって定められた、耐火建築物の耐火構造や耐火基準について解説します。
「耐火建築物」とは、建築基準法によって定められた耐火基準に適合する建築物のことです。建築物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根、階段)を耐火構造とし、かつ窓やドアなどの外壁開口部に防火設備を有するという条件を満たした建築物を指します。耐火構造は、通常の火災が終了するまでの間、建築物の倒壊、および延焼を防止するために必要な性能である「耐火性能」を備えた構造のことです。
「準耐火建築物」は、建築物の主要構造部を「準耐火構造」とする建築物のことを呼びます。準耐火構造とは、通常の火災による延焼を抑制するために必要な性能である「準耐火性能」を満たす構造のことです。耐火建築物と準耐火建築物の主な違いは、求められる耐火時間であり、準耐火建築物の方が、少し緩やかな基準となっています。
◾️耐火性能に関する技術的基準
耐火建築物 | 準耐火建築物 | ||||
建築物の部分 | 最上階および最上階から数えた階数が2以上で4以内の階 | 最上階および最上階から数えた階数が5以上で14以内の階 | 最上階および最上階から数えた階数が15以上の階 | ||
壁 | 間仕切壁(耐力壁に限る) | 1時間 | 2時間 | 2時間 | 45分 |
外壁(耐力壁に限る) | 1時間 | 2時間 | 2時間 | 45分 | |
柱 | 1時間 | 2時間 | 3時間 | 45分 | |
床 | 1時間 | 2時間 | 2時間 | 45分 | |
はり | 1時間 | 2時間 | 3時間 | 45分 | |
屋根 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 | |
階段 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 |
参考:e-Gov法令検索『建築基準法』
参考:「耐火構造」の基準。ーURくらしのカレッジ|独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)
木造であっても、建築基準法に定められた主要構造部と外壁開口部における技術的基準を満たすことで、耐火建築物の建築が可能です。耐火建築物の技術的基準を満たすためには、下記の3つの適合ルートがあり、それぞれのルートについて簡単に解説します。
適合ルートAとは、国土交通大臣が定めた構造方法、または大臣認定を受けた3つの構造方式(①燃え止まり型、②木質ハイブリッド型、③メンブレン型)を使用する方法です。
木材を使用する場合は、告示の例示仕様がないため、3つの工法のいずれかを採用する必要があります。
参考:国土交通省『官庁施設における木造耐火建築物の整備手法に関する検討』
適合ルートBとは、耐火性能検証法を用いて、主要構造部の非損傷性、遮熱性、遮炎性を確認する方法です。木材を利用する場合は、以下の3つのポイントがあります。
適合ルートCとは、国土交通省が指定した性能評価機関が、高度で専門的な知識により、性能を確認する方法です。適合ルートB、Cは、室面積と天井の高さが必要となるため、事務室用途での採用は難しく、基本的に天井の高いドーム建築や体育館などでの採用が多く見られます。
参考:国土交通省『官庁施設における木造耐火建築物の整備手法に関する検討』
近年では、大手ゼネコンを中心に、耐火木材を活用した大規模な木造建築が数多く計画され、都心部を中心に広がりを見せ始めています。ここでは、自社で開発した木質耐火部材を活かした建築物を先立って建設した、2つの企業の実例を紹介します。
株式会社竹中工務店は、2013年9月に、国内初となる耐火木造の大型商業施設「サウスウッド」(横浜市筑紫区)を建設しました。着工当時は、防火地域に木造で大規模な建築物を建てた事例はほとんどなく、まさに大規模木造建築の先駆けと言える存在です。サウスウッドは、地下1階、地上4階の商業施設で、竹中工務店が独自に開発した耐火集成部材「燃エンウッド」を採用しています。
参考:国内初となる耐火木造の大型商業施設「サウスウッド」着工|株式会社竹中工務店
株式会社大林組は、2022年5月に、自社の次世代型研修施設として、柱・梁・床・壁を全て木材とした高層純木造耐火建築物「Port Plus」を建設しました。純木造耐火建築物としては、国内最高レベルである11階建てで、高さは44メートルにものぼります。Port Plusには、3時間の耐火を実現した自社の構造材である「オメガウッド」の技術を活用し、建物全体で、木の特性を活かしたデザインが施されています。
参考:日本初の高層純木造耐火建築物「Port Plus」(次世代型研修施設)が完成|株式会社大林組
木材の耐火性という課題の解決につながる耐火木材は、昨今の木造建築を加速させるために不可欠な材料となりつつあります。建設時だけでなく、炭素固定による直接的なCO2削減効果もあるため、脱炭素への貢献も期待されています。一方で、現状はコストダウンが課題としてあげられており、耐火木材の普及促進には、継続的な技術開発のフォローも必要となるでしょう。木の素材として持つ質感、ぬくもりは活かしつつ、大規模な木造建築も可能とする耐火木材は、今後もさまざまな活用の可能性が広がっています。
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