サステナブル
この記事をシェアする
近年、地球温暖化への問題意識が高まる中、さまざまな分野で二酸化炭素(CO2)排出量削減に向けた対策が進められてきました。まちづくりにおいても、環境にやさしい建築物として「低炭素建築」が注目されています。
低炭素建築は、CO2排出量の抑制に貢献するだけでなく、認定を受けることで、税制優遇などのさまざまなメリットがあります。
本記事では、低炭素建築物の認定基準のほか、メリット、デメリットを解説します。
目次
「低炭素建築」とは、生活や活動に伴って発生する二酸化炭素を抑制するため、低炭素化に貢献する措置が講じられた建築物のことです。低炭素建築物は、『都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)』によって定められます。
本法律に基づいて「低炭素建築物認定制度」が創設され、所管行政庁(都道府県、市または区)が低炭素建築物の認定を行っています。
参考:『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』|国土交通省
「エコまち法」は、都市機能の集約や、建築物の低炭素化などに取り組むことで、地域での成功事例を蓄積し、その普及を図ることを目的として、2012年12月に施行されました。
ここでは、エコまち法と低炭素建築物認定制度について、3つのポイントから解説します。
エコまち法は、政府が2050年カーボンニュートラルを目指す宣言をしたことなどを背景に、低炭素建築物認定基準をより高い水準に引き上げるため、2022年10月に改正されました。
人口が集中する都市部は、建築物や自動車などに由来して、多くの二酸化炭素が排出される地域です。そのため、都市における低炭素化に向けた取り組みが急務となっています。
このような背景から、エコまち法は以下の2つの基本方針が定められています。
参考:『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』|国土交通省
低炭素化建築物の認定の対象となるのは、市街化区域内等で、以下の4つのうちいずれかに該当する建築物です。
国土交通省の直近の発表によると、低炭素建築物の2022年度の認定総数は20,676件でした。内訳としては、「一戸建ての住宅」が12,943件と全体の約60%を占めます。
低炭素建築物の認定件数 | 一戸建ての住宅 | 共同住宅等の住宅又は住棟 | 複合建築物 | 非住宅建築物 | 総件数 |
2022年度実績 | 12,943件 | 7,669件 | 70件 | 3件 | 20,676件 |
制度運用が開始された2012年12月からの認定累計総数は95,020件となり、認定件数は年々増加傾向にあります。
参考:低炭素建築物新築等計画の認定実績(令和5年3月末時点)|国土交通省
低炭素建築物の認定を受けるためには、次の3つの基準を全て満たす必要があります。
1の基準を掘り下げると、さらに次の2つの認定基準に分けられます。具体的な内容について見ていきましょう。
参考:『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』|国土交通省
省エネルギー性能は、「外皮性能」および「一次エネルギー消費性能」を住宅、非住宅ごとに定められた誘導基準に適合させる必要があります。低炭素建築物の認定を受けるためには、この2つの基準を満たすことが必須です。
外皮とは、建物の内部と外部の境界面のことで、屋根や外壁、床、天井、窓などを指します。外皮は熱の影響を受けやすく、外皮性能とは、こういった外皮の断熱性能のことです。
一次エネルギー消費量とは、建築物で使われている設備機器の消費エネルギーを熱量に換算した値のことです。認定の基準となる一次エネルギー消費性能としては、住宅では省エネ基準から20%削減、非住宅では省エネ基準から用途に応じて30〜40%削減することが求められます。
参考:『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』|国土交通省
参考:建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度|国土交通省
省エネ性能以外に認定を受けるために必要な基準は、その他講ずべき措置として、必須項目と選択項目の2つに分けられます。それぞれの項目の詳細について見ていきましょう。
必須項目としては、再生可能エネルギー利用設備の導入が求められます。太陽光発電設備や太陽熱・地中熱を利用する設備のほか、風力・水力・バイオマス等を利用する発電設備などから、いずれかの設備が必要です。
また、戸建て住宅の場合は、省エネ量と再エネ利用設備で得られるエネルギー量の合計が、基準一次エネルギー消費量の50%以上であることが求められます。
選択項目では、低炭素化に資する措置として、つぎのいずれかの措置を講じる必要があります。
参考:『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』|国土交通省
低炭素建築物は環境にやさしいだけでなく、認定を受けることでさまざまなメリットがあります。ここでは、次の3つのメリットを紹介します。
低炭素住宅の認定を受けると、「住宅ローン控除」の対象となります。2025年12月末までに居住を開始した人を対象に、新築または買取再販の住宅の場合、借入限度額が4,500万円まで認められます。(既存住宅の場合、借入限度額は3,000万円)控除期間は13年で、最大控除額は409.5万円です。
また、低炭素住宅は「フラット35S」の金利Aプランに該当するため、当初10年間は通常よりも借入金利が引き下げられます。
土地や建物を購入、建築した際に、所有権保存登記や移転登記などの手続きを取る必要があります。登録免許税とは、不動産の登記にかかる税金のことです。
新築で低炭素住宅の認定を受けた場合、登録免許税の税率が一般住宅特例よりも引き下げられます。
一般住宅特例 | 認定低炭素住宅 | |
所有権保存登記 | 0.15% | 0.1% |
所有権移転登記 | 0.3% | 0.1% |
容積率とは、建物の敷地面積に対する延べ床面積の割合のことです。
蓄電池や蓄熱槽の設置など、低炭素建築物の認定基準に適合させるための措置によって、通常の建築物の床面積を超える場合、容積率の算定から除外できるという特例があります。低炭素建築物の延べ面積20分の1を限度として利用できます。
低炭素建築物の認定にはさまざまなメリットがある反面、いくつかのデメリットもあります。ここでは次の2つのデメリットを紹介します。
低炭素建築物は認定基準を満たすため、太陽光発電設備などの省エネ設備を導入する必要があり、一般住宅よりも建築コストが高くなります。
一方で、認定により住宅ローン控除や税制優遇、補助金の支給を受けることができる場合もあるため、あらかじめ長期的な視点でコストを試算しておくことがおすすめです。
低炭素建築物は原則的に、市街化区域等内でのみ建築可能です。定められた区域外での認定申請はできないため、認定を念頭においている場合は、土地購入の前に事前に市街化区域内であるかを確認する必要があります。
エコまち法の目的は、都市における低炭素化です。建築物の新築によって都市の拡散を招く場合、都市全体での低炭素化につながらない懸念があるため、申請対象の区域が限定されています。
低炭素建築物の認定手続きは、以下のフローで進みます。
認定申請は、着工前に所管行政庁で行う必要があります。申請に必要となる書類や手数料は、事前に所管行政庁や審査機関に確認しましょう。
参考:『エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要』|国土交通省
低炭素建築物は、都市の低炭素化だけでなく、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた重要な取り組みの一つです。環境にやさしいことはもちろん、税制優遇など制度上でのさまざまなメリットもあり、認定件数も年々増加傾向にあります。
一方で、導入コストの増加や建築可能なエリアが限定的であるといったデメリットもあるため、認定申請の際は十分に留意しながら、検討する必要があるでしょう。
無料の会員登録していただけると、森林、製材品、木質バイオマスから補助金・林野庁予算の解説
など、あらゆる「木」にまつわる記事が全て閲覧できます。
おすすめの記事