サステナブル
この記事をシェアする
日本では「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、温室効果ガスの削減が急務となっています。脱炭素に関する様々な取り組みが進められる中、再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化は重要な課題の一つです。2022年には再エネ導入をさらに拡大するため、「FIP制度」が始まりました。本記事では、FIP制度の基本やメリット、課題について、従来のFIT制度との違いも合わせて解説します。
目次
「FIP(Feed-in Premium)制度」は、太陽光や風力などの再エネで発電した電力を市場で売った際に、売電収入に加えて一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度のことです。経済産業省の資源エネルギー庁によると、FIP制度は再エネ自立化へのステップアップの制度であるとしています。電力市場への統合を促しながら、投資インセンティブの確保と、国民負担の抑制を両立することを狙いとしています。ドイツやフランスをはじめとする欧州ではすでに導入が進んでおり、日本国内では2022年4月からスタートしました。2024年3月末時点で、国内のFIP制度の認定量は約1,761MW(1,199件)と、一定の活用が進んでいます。
参考:FIP制度ついて|資源エネルギー庁
参考:FIP制度に関する政策措置について|資源エネルギー庁
参考:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート|資源エネルギー庁「エネこれ」
FIP制度が始まった背景には、前身として導入されている「固定買取制度(FIT制度)」の存在があります。FIT制度は、再エネで発電された電気を、国が定めた価格で、電力会社が一定期間買い取ることを保証する制度です。国内の再エネ発電事業者を増やし、再エネの普及を促進するために、2012年から始まりました。
FIT制度においては、再エネ発電事業の将来的な収益が一定保証されるため、企業はリスクを軽減して投資ができます。これにより、事業参入にかかる初期コストの懸念が払拭され、特に太陽光発電を中心に再エネ導入が国内で急速に拡大しました。実際、国内の再エネ発電の電力量割合は、制度導入前の10.4%(2011年度)から20.3%(2021年度)と約2倍にまで高まりました。今後、再エネを主力電源としていくためには、既存の電源と同様に電力市場と結びついた自立的な発電が求められます。このような背景から、電力市場の需給バランスに応じた電力供給を促すことを目的としたFIP制度が導入されました。
参考:『令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績(確報)』概要(P.5):資源エネルギー庁
参考:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート|資源エネルギー庁「エネこれ」
FIP制度とFIT制度の主な違いは、買取価格の仕組みにあります。FIT制度では、電力会社が「固定価格」で電力を買い取るため、発電のタイミングにかかわらず収入は一定です。再エネ発電事業者は市場の価格変動に影響されず、安定した収益を得ることができます。一方、FIP制度では、市場に連動して売電価格も変動しますが、上乗せされるプレミアム(補助額)は一定です。発電事業者は市場の需給バランスを考慮して電力を売電することで、より高い収益を上げることもできます。
参考:『再生可能エネルギー FIT・FIP制度ガイドブック 2023年度版』|資源エネルギー庁
FIP制度では、売電価格にプレミアム(補助額)が上乗せされた合計が、再エネ発電事業者の収入となります。プレミアムは、「基準価格(FIP価格)」から「参照価格(市場取引等により期待される収入)」を引いた額(プレミアム単価)に、再エネ電気供給量を乗じて算定されます。
基準価格は、FIT制度における調達価格と同じ考え方で決められます。再エネで発電した電気が効率的に供給される場合に、通常必要と見込まれる費用を基礎とし、そのほかの事情も考慮して定められます。参照価格は、市場での取引などによって、再エネ発電事業者が期待できる収入のことです。市場価格に連動して機械的に算定され、1ヶ月単位で更新されます。
参照価格は下記の関係式で算出されます。
「非化石価値」とは、化石燃料由来ではない「非化石電源」で発電された電気が持つ「環境価値」の一つです。すなわち、再エネで発電した電気にも非化石価値があります。非化石価値は「非化石証書」により取引が可能で、その取引を行う市場が「非化石価値取引市場」です。
参考:FIP制度ついて|資源エネルギー庁
参考:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート|資源エネルギー庁「エネこれ」
発電事業者には「計画値同時同量制度」が課せられるため、発電する電気の「計画値」と「実績値」を一致させることが求められます。計画値と実績値に差(インバランス)がある場合は、その差を埋めるためのペナルティ料金として「バランシングコスト」を支払う必要があります。FIP制度下では、再エネ発電事業者もバランシングを行わなければなりません。
再エネの自立化と電力市場への統合を目的とするFIP制度には、さまざまなメリットがあります。発電事業者や電力市場にとっての主なメリットは、下記2点です。
FIP制度は、従来のFIT制度と比較すると、発電事業者にとってより多くの収益をもたらす可能性があります。FIT制度では、固定価格での買取が行われるため、価格変動の影響を受けませんでした。
しかし、FIP制度では需要と供給を踏まえ、発電事業者が売電をコントロールできるため、日中の価格差を活用して市場価格が高い時に売電すれば、さらなる収益が期待できます。さらに、蓄電池を併用することで、晴天時に発電した電気を蓄え、電力需要が高まったタイミングで売電することも可能です。このように需給バランスを意識した戦略を立てることで、発電事業者はより収益を拡大することもできるでしょう。
従来のFIT制度は、電力の需給に関係なく、電力会社が定められた価格で電力を買い取るため、時間帯によっては供給過多となることもありました。一方、FIP制度は、電力市場に連動して買取価格が変動するため、再エネ発電事業者は電力の需給バランスに留意して発電するようになります。発電事業者の意識変化により、国内の電力需給バランスも安定性を増すことが期待されます。
次に、FIP制度のデメリットや課題として、以下の2点が挙げられます。
FIT制度では、電気の買取価格は毎年政府によって決定されるため、1年間を通して収益の見込みが立てやすい仕組みとなっていました。しかし、FIP制度は、売電価格が市場の動きに応じて日々変動するため、再エネ発電事業者にとっては長期的な収益の予測が困難となるデメリットがあります。発電事業者が長期にわたり安定した収益を確保するためには、データ分析や細やかな管理など、高度なノウハウが求められます。
前述の通り、FIP制度は、計画値同時同量制度に基づき、発電量の計画値と実績値に差異が生じた場合、バランシングコストを支払う必要があります。太陽光発電を代表とする再エネ発電は自然や天候の影響を受けやすいため、計画通りの発電ができないこともあります。また、戦略的な発電を行うためには、蓄電設備の導入も重要となりますが、大容量の蓄電池は非常に高価であり、一定の設備投資が必要です。このように、発電事業者の運用コストが増加する可能性がある点は、FIP制度の課題と言えるでしょう。
政府は、2030年度の国内再エネ比率を36〜38%程度に引き上げる目標を掲げています。世界的にも再エネ発電が重要視される中、2022年のFIT制度開始により、国内における再エネ設備の導入が大幅に進展しました。今回解説したFIP制度は、再エネ自立化に向けたステップアップの制度として、さらなる再エネの普及を促進します。今後は、蓄電池の活用や気象予測技術など、再エネ関連の新たなビジネスの創出も期待されます。
無料の会員登録していただけると、森林、製材品、木質バイオマスから補助金・林野庁予算の解説
など、あらゆる「木」にまつわる記事が全て閲覧できます。
おすすめの記事