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記事公開:2024.8.30

森を守り木を活かす|進化する林業のいま

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「森を守り、木を活かす」のが林業の仕事です。

 私たちの身近にある木製品や紙などは、林業に携わる人々の手によって支えられています。しかし、その現場は今、さまざまな課題とともに、大きな変化の波にさらされています。今回は、林業の役割や歴史と変遷に触れながら、林業に求められている「新しい林業」についても解説します。

林業とは「木材を生産しながら森林を守る」仕事

林業は「木材資源の生産と健全な森林の保護を両立させる」重要な仕事です。適切な森林管理を通じて、先人から引き継いだ貴重な森林資源を未来へ継承していく重要な役割があります。「親が植え、子が育て、孫が伐る」という言葉があるように、林業は長期的な視野が必要となる仕事です。さらに今、地球環境の保全が叫ばれる中、森林の持つ多面的な機能に注目が集まっています。これからの林業には、木材を生産しながら森林を持続的に管理し、森林の持つさまざまな機能を維持する施策が求められています。

参考:緑の雇用|林野庁
参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ

林業が担う役割

林業は古くから木材生産に加えて、山地災害や水害を防ぐ目的でも行われてきました。現在では、森林の持つ多面的な機能の保全に対する比重も高まっています。ここからは、林業が担う役割について、次の2点から解説します。

  • 木材の安定的生産
  • 森林の多面的機能保全

木材の安定的生産

林業は、私たちの生活に欠かせない木材を生産する重要な役割があります。工程としては、植樹から始まり間引きや枝打ちなど、木の育成管理を経て最終的な伐採・加工・出荷へと続きます。さらに、伐採後の区画整備や次の造林に向けた植樹準備も林業の役割です。林業は木材の安定供給を通じて、建築材料や家具、紙製品などの原料を提供し、私たちの暮らしを支えています。

参考:林業の仕事と役割とは?日本に森林の現状と課題、その将来性について解説します。|農業ジョブ
参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ

森林の多面的機能保全

林業の役割は木材生産だけにとどまりません。適切に管理された森林は、土壌流出の防止や洪水の軽減など、災害防止に重要な役割を果たします。最近では、森林の二酸化炭素を吸収する特性が地球温暖化の緩和に大きく寄与するとして、その保全が強く求められています。日本の国土の約7割を占める森林において、林業は材料生産と環境維持の二面性を持つ不可欠な産業です。林業は、森林環境の維持・保全を通じて私たちの生活基盤を守り、自然との共生を実現する重要な役割を担っています。

参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ
参考:森林の有する多面的機能について|林野庁

林業従事者の主な仕事

林業の仕事には多くの工程があり、季節ごとにさまざまな方法で森林を管理しています。ここからは、林業に従事する方が行う代表的な仕事について説明します。林業従事者の主な仕事は下記5つです。

  • 伐採
  • 木寄
  • 造材
  • 集材/運材
  • はい積

伐採

伐採とは、立っている木を切り倒す作業です。除伐、間伐、主伐などの種類があり、それぞれ次のように目的が異なります。

  • 除伐:生産する樹種以外の植物や形の悪い木を除去して整備する
  • 間伐:混み合った森林の健全化を目指して間引くと同時に利用出来る木を収穫する
  • 主伐:成熟した木を収穫する

伐採はチェーンソーか、地形条件が良い場所では機械を使用して行います。

参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ
参考:森林の仕事紹介|緑の雇用

木寄

木寄は、林地内に散らばっている伐採した木を作業しやすい場所に集める作業です。機械を使用しますが、人力作業も依然として必要とされています。地形の条件が良い場所では、林内作業車である運材車が活躍します。

参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ
参考:林業の集材方法について|株式会社ヨシカワ

造材

造材は、伐倒した木の枝と梢を切り落とし、用途に応じて適切な長さの丸太に切断する作業です。玉切り作業とも呼ばれます。玉切り作業では、樹幹の大小や曲がり、節、腐れなど木の欠点を見極める力が必要になります。

参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ
参考:玉、玉切り(たま、たまぎり)とは|キノマチウェブ

集材・運材

集材・運材は、造材された丸太を効率的に運搬する作業です。集材:専用の運材車を使用し、丸太を土場まで運ぶこと運材:土場に集められた木材を大型トラックで木材市場や貯木場へ輸送すること土場とは、大型トラックに積み込むための広さが確保できる場所のことです。

参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ

はい積

はい積は、土場まで運搬された材を一時的に集積し、整理する作業です。木材の種類や材の長さ、太さ、曲がりなどの特性に応じて分類し、きれいに積み上げます。木材の品質管理や効率的な輸送準備として欠かせません。

参考:林業という仕事について|ぐんま森林・林業就業ナビ
参考:作業の流れ|高菊林業

林業の歴史と変遷

日本の林業は、森林資源の枯渇と災害発生、そしてその回復と造林の繰り返しを経て発展してきました。江戸時代の都市集中や明治時代の近代化、そして昭和の戦後復興などに伴う木材の急激な需要増加によって、大規模な森林伐採が行われています。大規模な森林伐採は、山地災害や水害を引き起こし、その対策として造林や植樹が奨励され、制度や補助金などの整備も進みました。現在、林業は大きな転換期を迎えています。需要が頭打ちになったことや安価な輸入木材の流入により、従来の木材生産中心の森林整備は困難になっているためです。日本の林業に求められる役割は、木材生産から森林の多面的機能の保全へと重点が移りつつあると言えます。

参考:我が国の森林整備を巡る歴史|林野庁

スマート化によって変化する「新しい林業」

林業に求められる役割が変化する中で、林業の仕事自体もさまざまに変化しています。林野庁では、森林資源情報の高度化とデータ化、そして最新技術を活用した「スマート林業」を推進しています。ここからは、時代の変化に伴ってスマートに変化する「新しい林業」について解説します。

森林クラウドの導入

森林管理の効率化を図るため、管理の基礎となる森林簿や森林基本図などの情報をデジタル化し、一元管理する取り組みが進んでいます。林野庁はデータ整備にあたって標準仕様書を作成し「森林クラウド」の導入を促進しています。導入が進めば、自治体間の連携や林業経営体へのデータ提供が効率的になり、適切で効果的な森林管理が実現すると期待が寄せられています。

参考:森林資源情報のデジタル化/スマート林業の推進|林野庁

レーザー計測の活用

レーザー計測技術は、レーザー光を照射して高さなどを測る技術です。導入によって、広大な地形や樹高、蓄積量の正確な把握が可能になり、森林管理の精度が飛躍的に向上しました。森林クラウドへのレーザー計測データの搭載や森林簿への反映も進めており、森林・林業関連アプリの開発にも期待が寄せられています。林野庁は「森林資源データ解析・管理標準仕様書」を作成し、データの統合や比較を容易にしています。

参考:森林資源情報のデジタル化/スマート林業の推進|林野庁

先端技術・大型機械の活用

新しい林業では、先端技術と大型機械の活用が進んでいます。造林分野では、成長が早く材質に優れた「エリートツリー」の開発が注目を集めています。エリートツリーによって、造林初期投資の削減や伐期の短縮が可能です。間伐・主伐作業では、遠隔操作機械の導入により、作業の省人化や安全性の向上が図られました。また、集材作業においては、高性能林業機械の導入が進んでいます。機械により、作業効率が大幅に向上すると同時に、作業者の身体的負担の軽減も実現可能です。先端技術や大型機械の活用は、林業の生産性向上と労働環境の改善に大きく貢献すると期待されています。

参考:森林資源情報のデジタル化/スマート林業の推進|林野庁

「新しい林業」事業に取り組む事例

現在、林業を施業している事業体の中には、すでに新しい林業に取り組んでいるところがあります。ここからは実際に「新しい林業」に取り組む事例として、次の3つをご紹介します。

  • 北海道・十勝型機械化林業経営|北海道
  • CTLシステムによる、垂直統合型経営モデルの構築|岩手県
  • 事業連携による新しい地方創生型SDGs林業への挑戦|奈良県

北海道・十勝型機械化林業経営|北海道

北海道・十勝で行われているこのプロジェクトは、地形的な条件と気候が北海道に良く似た北欧をモデルに行われています。作業計画から、素材生産、流通、再造林、保育までの工程に機械化による新技術を導入し、安全性と収益性が高い作業システムの構築を目指しています。生産・流通・再造林の工程におけるコストの削減を目標とした林業経営を行う中で、収支・安全対策の強化や雇用対策の向上に効果が現れています。林業における人材不足解消にも効果が期待されている事業と言えるでしょう。

参考:北欧をモデルにした北海道・十勝型機械化林業経営|林野庁

CTLシステムによる、垂直統合型経営モデルの構築|岩手県

岩手県では、林業経営体である柴田産業が、素材生産から再造林、製材まで含めて一貫して手がける垂直型統合モデル構築を目指す実証実験が行われています。実証実験でメインとなるのは日本版のCTLシステムです。CTLとは「Cut to Length(短幹集材)」の略称で、林業機械で林内に入り、伐倒・玉切り・集材までを一貫して行うものです。

あわせて、製材工場における需要情報を集約化することで採材のシステム化を図り、林内作業の無駄を省くのも目的の一つになっています。事業の効果として、調査と作業の省力化によって素材生産に時間がかけられる点や生産性、労働安全性が向上している点などが確認されています。

参考:ICTを活用したCTLシステムによる、垂直統合型経営モデルの構築|林野庁

事業連携による新しい地方創生型SDGs林業への挑戦|奈良県

奈良県を中心に行われているのは、京都府、大阪府、奈良県、三重県で地域社会の活性化(SDGs)を目指す、新しい協働的な林業です。素材生産ではヘリでの集材に代わり架線系集材を導入、ヘリ集材のコスト削減に成功しました。流通面においては、地域金融機関の協力も得て、需要サイド(地域密着型の工務店)とのマッチングを行い、効率的なマッチングを実現しています。また、種苗事業者との連携で再造林、保育の低コスト化も可能にしました。地域の幅広い事業体との連携による、地方創生型林業の実例と言えるでしょう。

参考:需要地と供給地の事業連携による新しい地方創生型SDGs林業への挑戦|林野庁

まとめ

日本の林業は歴史的に森林資源の利用と保全のバランスを取りながら発展してきましたが、現在、大きな転換期を迎えています。

木材生産中心から森林の多面的機能の保全へと重点が移りつつ、スマート林業の導入が進んでいます。森林クラウドやレーザー計測技術の活用により、森林管理の効率化と精度向上が可能となりました。エリートツリーの開発や高性能林業機械の導入など、先端技術の活用もますます進んでいくでしょう。様々な技術の導入や取り組みにより、林業の生産性向上と労働環境の改善が進み、持続可能な森林管理が可能になりつつあります。これからの林業は、新しいテクノロジーの導入と活用をいかに早く、確実に進めていくかが大きな鍵になるでしょう。

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