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記事公開:2024.8.9

脱炭素時代の建築|木造ZEBが切り拓く可能性

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球温暖化対策が急務とされる中、建築分野においても環境負荷の低減が求められています。そこで世界的にも注目を集めているのが、ZEB(Net Zero Energy Building)です。本記事では、ZEBの定義や認証制度の解説に加え、補助金や木造ZEBの実例も紹介します。建設業界ができる、環境負荷への対策を理解しておきましょう。

ZEBとは「エネルギー収支ゼロを目指した建物」

ZEBとは、エネルギー収支ゼロを目指した建築物のことです。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギー収支をゼロにすることを目指しています。具体的には、下記2つの面からのアプローチが行われます。

  • 省エネ:建材の断熱性能の向上や高効率の照明や空調設備などを導入することによってエネルギー消費量を削減する
  • 創エネ:太陽光発電やバイオマス発電などを活用してエネルギーを創出する

ZEBは、脱炭素社会の実現に向けた重要な取り組みの一つとして位置づけられています。建築物のライフサイクル全体でのCO2排出量削減に貢献し、環境負荷の少ない持続可能な社会づくりに寄与します。

参考:ZEBとは?|環境省

脱炭素の鍵となる木造ZEB

ZEBの実現において、木造建築が注目を集めています。その理由として代表的なものが次の3点です。

  • 炭素貯蔵庫としての役割:成長過程で大気中のCO2を吸収し炭素を固定する特性を持つため
  • 建物全体のエネルギー効率向上:断熱性に優れているため
  • ライフサイクル全体でのCO2排出量削減:製造や加工にかかるエネルギーが他の建築材料と比べて少ないため

その他にも、木材を使用して造られた空間には、働く人の五感に働きかけて作業効率を向上させたり、心と身体に健康をもたらすという研究結果があります。このような特性から木造ZEBは、快適な室内環境と脱炭素の両立に向けた有効な解決策の一つとして期待が高まっています。

参考:脱炭素社会の非住宅建築は「木造ZEB」が主役になる理由|株式会社エヌ・シー・エヌ

参考:地域の木材を使ったZEH及びZEBの推進について |千葉県ホームページ

参考:科学的データによる木材・木造建築物のQ&A|林野庁

ZEBの4段階の定義

ZEBでは、エネルギー削減率に応じて環境省が4つの段階を定義しています。ここからはZEBの4つの段階のうち、エネルギー収支ゼロ(ZEB)に至る前段階である下記3つについて詳しく解説します。

  • Nearly ZEB|ZEBに限りなく近い建築物
  • ZEB Ready|ZEBを見据えた先進建築物
  • ZEB Oriented|ZEB Readyを見据えた大型建築物

Nearly ZEB|ZEBに限りなく近い建築物

Nearly ZEBは、75%以上のエネルギー削減を達成した建築物です。ZEBに限りなく近い性能を持ち、高い省エネ性能と一定量の再生可能エネルギー創出を実現しています。

具体的には、次の2点のどちらにも適合した建築物を指します。

  • 再生可能エネルギーを除き、一次エネルギー消費量から50%以上の削減を達成
  • 再生可能エネルギーを含み、一次エネルギー消費量から75%以上100%未満の削減を達成

参考:ZEBの定義|環境省

ZEB Ready|ZEBを見据えた先進建築物

ZEB Readyは、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減を実現した建築物のことです・将来的なZEB化を見据え、外皮の高断熱化や高効率な省エネ設備など、先進的な省エネ設計が施されています。

参考:ZEBの定義|環境省

ZEB Oriented|ZEB Readyを見据えた大型建築物

ZEB Orientedは、延床面積10,000㎡以上の大規模建築物を対象としたZEBの基準です。ZEB Readyを見据えた建築物として、さらなる一次エネルギー消費削減を目指した建築物のことを指します。具体的な省エネルギーの要件として次のようなものがあります。

  • 事務所・学校・工場などは再生可能エネルギーを除き、40%以上削減
  • ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所などは30%以上の削減
  • さらなる省エネ実現に向けて、実評価技術を導入すること

参考:ZEBの定義|環境省

ZEBに関連する評価・認証制度

ZEBの普及を後押しするため、様々な評価・認証制度が設けられています。ここからは、次の4つの評価・認証制度について解説します

  • BELS
  • eマーク
  • CASBEE
  • LEED

BELS|エネルギー性能表示制度

BELSは、設計時点での建築物のエネルギー性能を第三者機関が評価する制度です。省エネ性能を星マークの5段階で表示し、消費者にわかりやすく伝えます。また、ZEBの評価と同じ指標を使用して評価しているため、ZEBの基準を満たしている場合、BELSの星表示に加え「ZEB」「Nearly ZEB」「ZEB Ready」の表示も可能です。

参考:ZEBに関連する評価・認証・表示制度|環境省

eマーク|省エネ基準適合認定制度

eマークは、国交省が定める省エネ性能表示のガイドラインにおいて、既存建築物の省エネ性能を表示する制度と位置づけられた評価制度です。認定を受けることで、省エネ性能が基準に適合していることをアピールできます。ただし、eマークは省エネ基準に適合していることのみを示すもので、より高い水準を目指す指標ではありません。

参考:ZEBに関連する評価・認証・表示制度|環境省

CASBEE|建築環境総合性能評価システム

CASBEEは、日本独自の環境性能評価システムです。2001年に国土交通省主導のもとに開発されたCASBEEは、建築物から都市まで幅広い範囲が評価対象です。CASBEEでは、エネルギー性能だけでなく、室内環境や景観への配慮なども含めた総合的な環境性能を評価します。他の指標が環境品質向上については評価項目の一部としているのに対し、CASBEEは環境負荷と環境品質の2つを明確な評価軸とし、5段階にランク分けされます。

参考:ZEBに関連する評価・認証・表示制度|環境省

LEED|建築物の総合的な環境性能評価システム

LEEDは、国際的に認知された環境性能評価システムです。評価対象は建築物から都市まで幅広く、対象に応じて5種類の認証カテゴリーがあります。認証カテゴリーごとに評価項目が設定されていて、それぞれの評価基準を満たすことで4段階の評価が行われる仕組みです。

参考:ZEBに関連する評価・認証・表示制度|環境省

ZEBに関する補助金などの実証事業

ZEBの普及を促進するため、さまざまな補助金制度が設けられています。

例えば、経済産業省による「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業」では、ZEB設計のノウハウが確立されていない民間の大規模建築物に補助金を支給しています。新築で10,000㎡以上、既存建築物で2,000㎡以上の建築物について、先進的な技術を組み合わせてZEB化を図る際に適用される制度です。また、既存住宅に対しては「次世代省エネ建材の実証支援事業」があります。工期短縮可能な高性能断熱材や快適性向上にもつながる蓄熱・調湿建材など、次世代省エネ建材の効果の実証を支援するものです。制度を活用することで、ZEB化に伴うコスト増加を軽減できるでしょう。

参考:ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)|経済産業省資源エネルギー庁

参考:令和6年度 ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)実証事業|一般社団法人環境共創イニシアチブ

参考:令和6年度 次世代省エネ建材の実証支援事業|一般社団法人環境共創イニシアチブ

木造ZEBの事例

建築物の構造材や内装材に地域で生産される木材を利用することで、建築物のZEB化だけでなく、輸送時のエネルギー消費の削減も実現可能です。ここからは、木造建築によってZEB化を実現した3つの実例をご紹介します。

  • 「普通の設計」で木造ZEBを実現|ザイソウ正木ビル
  • 木造ZEBの新社屋建設|東北ボーリング株式会社
  • 国内初の木造ZEB認証取得|株式会社良品計画

「普通の設計」で木造ZEBを実現|ザイソウ正木ビル

名古屋市中区に建つ「ザイソウ正木ビル」は、木造建築でZEBを実現した先駆的な事例です。在来木造の3階建てで、住宅で使われる一般的な技術や材料を用いてZEB化に成功しました。高い断熱性能を基本とし、高効率な設備機器と太陽光発電を組み合わせることで、年間の1次エネルギー消費量を実質ゼロに抑えています。特殊な手法を用いずに「普通の設計」でZEBを達成した点が特徴で、木造非住宅建築の可能性を広げる象徴的な建物となっています。

参考:News & Topics|材惣DMBホールディングス株式会社

「普通の設計」で木造ZEBを実現|日経クロステック

木造ZEBの新社屋建設|東北ボーリング株式会社

東北ボーリング株式会社は、仙台市若林区に木造ZEBの新社屋を建設し、2023年4月から営業を開始しました。この新社屋は、宮城県産杉材やCLTを積極的に活用しているのが特徴です。CLTは直交集成板のことで、挽き板を繊維方向が直交するように重ねて接着した木質系材料のことを指します。厚みがある大きな板で、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合的な効果が得られる上、構造区体として大規模な建物を支えられる強度も特徴です。木造建築による二酸化炭素の固定や森林サイクルの維持に貢献するとともに、木のぬくもりを活かした健康的な職場環境を実現しつつ、高いエネルギー効率を達成しています。

参考:木造『ZEB』新社屋建設によるカーボンニュートラルへの挑戦|東北ボーリング株式会社

国内初の木造ZEB認証取得|株式会社良品計画

2024年秋開業予定の「無印良品唐津」(佐賀県)と「無印良品日田」(大分県)が、床面積2,000平方メートル超の大規模木造建築として国内初の『ZEB』認証を取得しました。両店舗で合計723m2の木材を使用し、外壁には地域材を活用している点が特徴です。株式会社良品計画は農林水産省と木材利用促進協定を締結しており、建築物の木造化に向けたさまざまな取り組みを行っています。今後5年間で建築予定の店舗において、約10,000m2の国産材を活用した大規模店舗の木造化とZEB化を目指しています。

参考:今週開業予定の無印良品初の木造店舗が本体工事完了|良品計画

まとめ

木造ZEBは、環境性能の高さと木材の持つ優れた特性を組み合わせることで、脱炭素社会の実現に大きく貢献するはずです。エネルギー効率の向上だけでなく、炭素固定による直接的なCO2削減効果も期待できます。一方で、大規模な木造建築の実現には技術的な課題や法規制の問題もあります。問題を克服し、木造ZEBをさらに普及させていくためには、継続的な技術開発と実証事業のような制度的なフォローが必要となるでしょう。

環境への配慮と快適性、そして日本の豊かな森林資源の活用を両立する木造ZEBは、持続可能な建築の新たな形として大きな期待を集めています。

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