サステナブル
この記事をシェアする
近年、複合施設やショッピングモールなどで、自然と調和するようなデザインが増えているのを感じる方も多いことでしょう。
空間に植物や木材などの自然素材を取り入れるのは、バイオフィリアの概念に基づいたデザインの方法です。
本記事では「バイオフィリアとは何のことだろう」「バイオフィリアを取り入れる方法を知りたい」と考える方に向けて、木造建築や内装木質化とも親和性の高い、バイオフィリアについて解説します。
バイオフィリアとは、生命や生き物・自然などを意味する「バイオ」と愛好や趣味・嗜好を意味する「フィリア」を組み合わせた造語で、1984年にエドワード.O.ウィルソンによって提唱された仮説です。
それによると、人間の本能には自然や生物とつながりたい、という欲求が備わっており、自然の中に身を置くことで、不安やストレスが減少したり、生産性が向上したりする効果が得られるといわれています。
最近ではオフィス空間でも内装の木質化など、自然素材を用いた空間を造ることが多くなっています。
カーボンニュートラルの観点から語られることの多い内装木質化ですが、バイオフィリアとの親和性も高い、効果的な方法といえるでしょう。
ここではバイオフィリアによる効果について解説します。
バイオフィリアによる効果は主に、リラックス効果やストレス軽減といわれています。
人間の本能である五感に作用することで高い効果を発揮すると考えられ、さまざまな研究でその効果が実証されています。
日本の代表的な樹木であるヒノキの香りにリラックス効果があることは、多くの方が体感的に知っていることでしょう。
実際、ヒノキなどの針葉樹に多く含まれるα-ピネンやD-リモネンといった香り成分が、リラックス時に高まるといわれている副交感神経の活動を活発にするということが、研究の結果として証明されています。
内装などにスギやヒノキなど、自然素材である木材を利用することで、脳活動や自律神経活動を鎮静化することが、バイオフィリアの効果の一つです。
千葉大学の研究によると、木質系素材を見たときに脳前頭前野活動が鎮静化するとともに、副交感神経活動が活発になるという結果が出ています。
この研究は木材の見た目に関して、大型ディスプレイを用いた画像実験をしたもので、実際の木製品ではないものの、視覚による効果を実証したものです。
さらに、内装を木質化させる効果として、木材が紫外線をよく吸収することもあげられます。
木材から反射する光には紫外線がほとんど含まれないため、内装に使用することで、目にも負担が少ない素材であるといえるでしょう。
前述の千葉大学による研究成果で、ホワイトオークを対象に手で触ったときのリラックス効果についても公表されています。
ホワイトオークだけでなく、ヒノキやスギの床材に足で触れたときでも高すぎる脳活動を鎮静化させ、リラックス時に高まる副交感神経活動を亢進させることが明らかになりました。
さらに、木材の上に施された塗装については、薄い方がより低いストレス反応を示し、厚い塗装は金属に触れたときと同様のストレス反応を示すことも報告されています。
バイオフィリアの概念に従えば、より自然に近い素材の方がリラックス効果が高いといえるでしょう。
現在、オフィスを始め、建築物の外装やショッピングモールなどのデザインでもバイオフィリアを取り入れる動きが活発になっています。
ここでは、バイオフィリアを取り入れる具体的な方法について解説します。
バイオフィリアを取り入れる直接的な方法として実践されるのは、観葉植物を置いたり、天井や壁、パーテーションなどを緑化したりすることです。
室内に自然を手軽に取り入れることができ、自然を視覚的に感じられるのが大きなメリットといえるでしょう。
観葉植物は床に置くだけでなく、天井や壁から吊すなどハンギングタイプのものを選べば、スペース的にも取り入れやすくなります。
新たに建設するビルなどの場合、壁一面を緑化する方法もひとつです。
オフィスビルなどで導入することで、訪れる人のリラックス効果や生産性の向上などが期待できます。
自然を間接的に取り入れる方法として効果的なのは、木造建築や内装の木質化です。
内装木質化に関しては「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定され、国を挙げて取り組んでいる内容の一つです。
さまざまな実例を基に集められた利用者からは、リラックスや癒やし効果、疲労感の軽減など、心理面・身体面ともに効果を認める声があがっています。
すでに建てられている空間においては、パーテーションに木材を使用したり、木材を使った家具を取り入れたりするのもバイオフィリアの取り組みとして有効です。
バイオフィリアの概念が人間の本能に基づくものである以上、空間作りも取り入れ方の一つです。
世界のさまざまな国のオフィス環境についての調査によると、「プライベート空間があるデスクで仕事をする方が生産性を上げられる」と感じる従業員が39%にのぼることが明らかになりました。
特にオフィスにバイオフィリアを取り入れる場合、隠れ家のようなパーソナル空間が確保されていることに加え、自然の中で息抜きのできるような休憩場所の整備が効果的といえるでしょう。
バイオフィリアを取り入れた建築物のデザイン手法を「バイオフィリック」と呼びます。
実際にバイオフィリアを取り入れて作られたバイオフィリックの実例について紹介しましょう。
バイオフィリックデザインでは、地域や自然との調和をテーマに空間設計をされている点が特徴です。
H1O 渋谷神南は、流行に敏感で世界的にも注目度の高い渋谷の中でも、代々木公園に近い、落ち着いた雰囲気のある神南エリアに作られたオフィスビルです。
緑に囲まれた立地に調和するよう、木をテーマとした空間設計がされています。
テーブルには傷がつきにくいGywood(スギ表層圧密材)を使用したスギ材を使用し、壁には香りが高いヒノキを採用しています。
また、植物をインテリアに採用したり、水盤が配置されたりと、人間の五感に訴える仕掛けで環境への気づきを促す工夫が施されています。
総合インフラサービス企業であるインフロニア・ホールディングスのICI ラボ(ネスト棟)は、木造の自由度を活かした大屋根が印象的な建築物です。
4つの空間で構成されたこの施設は、バイオフィリアの考え方を随所に取り入れたデザインが特徴です。
全ての空間で使用される家具は木製を基本とし、心身ともにリフレッシュできるよう工夫されています。
また、仕事に没頭できるような個別に仕切られたスペースを始め、リフレッシュのためのエクササイズエリアや新しい発想が生まれるアナザーワールドエリアが配置されるなど、生産性の向上とリラックス効果を両立できる建築物といえるでしょう。
2020年春から順次オープンしている立川「GREEN SPRINGS」はバイオフィリックデザインを取り入れた複合施設です。
「まちの縁側」をテーマに、地域の自然と調和するように設計されていることが特徴で、敷地内に公園を始め、ステージ・ホテル・店舗・テラス・オフィスの機能が混在しています。
建物の軒天には多摩産のスギ材が採用され、建物に囲まれた中央広場にはビオトープ・噴水・芝生広場などが配置されています。
水が流れる全長120mの階段式の滝は子どもにも人気があり、誰もが安らぎや心地よさを感じられる場所といえるでしょう。
「空と大地と人がつながるウェルビーイングタウン」がコンセプトの立川「GREEN SPRINGS」は、バイオフィリックデザインをいち早く取り入れた施設として注目を集めています。
参考:空と大地と人がつながるウェルビーイングタウン|立川GREEN SPRINGS
人間は本能的に「自然や生物とつながりを持ちたい」という欲求を持っているため、自然素材に囲まれることによってストレスが減少したり、生産性が上がったりするというのがバイオフィリア仮説です。
近年ではバイオフィリアの概念に基づいて、五感に働きかける工夫を施された空間作りが行われることが増え、リラックス効果や生産性の向上が実証されています。
バイオフィリックデザインは、木造建築や内装木質化とも高い親和性を持っています。
自然と調和するバイオフィリアの概念を取り入れた建築が増えることで、木材の利用促進にも、大きな効果が期待できるでしょう。
無料の会員登録していただけると、森林、製材品、木質バイオマスから補助金・林野庁予算の解説
など、あらゆる「木」にまつわる記事が全て閲覧できます。
おすすめの記事