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近年、非住宅への木材利用が活況を呈しており、ビルや商業施設などで自然の温かみを感じる機会が増えてきました。それに伴う形で木材の品質についても議論されるようになり、JAS材、JAS構造材といった少し聞き慣れない言葉に触れる機会も増えたように思えます。
そこでこの記事ではJAS材とはどういうものか、規格の概要やメリットを実例も合わせて包括的に解説します。
目次
JAS材とはJAS規格に準拠した一定の品質・性能が担保された木材・木質建材のことを指します。一般的に木材は生物材料ということもあり品質にばらつきがあるものです。しかし、JAS材であればそういった品質のばらつきの懸念が少なく、建築物の構造安全性の観点からも普及が推奨されています。
JASとは Japanese Agricultural Standardの略で「日本農林規格」のことです。日本農林規格は、農林物資の規格化などに関するJAS法に基づいて、農林水畜産物および加工品の品質を一定の範囲・水準であることを保証するものとして誕生しました。木材加工品も集成材や合板などで当初からJAS規格が適用されています。2018年4月のJAS法令改正により、製法や試験方法などでもJAS規格を設定できるようになりました。このことから現在、無垢の製材品も性能が明確になったものにはJASマークが表示されています。
JAS規格において構造用製材品は「目視等級区分」と「機械等級区分」にわけられます。「目視等級区分」は目視による節などの欠損、割れ、年輪の間隔などの測定で、1級〜3級の3段階にわかれます。「機械等級区分」は試験機で曲げヤング係数を測定することにより6段階にわけられます。
目視等級では節が少ない木の方が良材とされますが、機械等級の場合、節が多くてもヤング係数が大きければ良材に仕分けられます。また、JASの表示がない無等級の構造材は性能が不明確であるので、構造計算が必要な大規模建築などへの活用が難しく、また、小規模建築であっても建築基準法4号特例の見直しが進められるなど、用途が限られてくる可能性があるでしょう。
4号特例見直しについてはこちら
▷建築基準法4号特例見直しについて
JAS規格において集成材は外観品質だけでなく、接着や強度の性能、ホルムアルデヒド放散量などについて試験方法・適合基準が定められています。
また、集成材のJAS規格の概要は以下の通りです。
参考:日本集成材工業協同組合
品質にばらつきが出やすい木材を機械検査によって明確化しているのがJAS材です。ではJAS材を利用することで、実際の建築などの現場にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
2019年6月に改正建築基準法が施行され、非住宅の木造化が大きく期待されるようになりました。施行前は耐火建築物としてしか設計できなかったものが、準耐火建築物として設計できるようになったことが非住宅の木造化を推し進めるポイントとなりそうです。
また、そこで重要となってくるのが構造材料の信頼性です。その点、JASの機械等級区分構造用製材品は材料強度が明らかになっており、安心して利用できるところがメリットといえるでしょう。
そしてJAS材利用のもうひとつのメリットは「JAS構造材実証支援事業」において、木材調達費の一部が助成されることです。支援概要について要約すると以下の通りです。
対象:JAS構造材活用宣言事業における登録事業者
概要:施主が国ではない、中高層住宅や3階以下の非住宅において、構造部分にJAS構造材を利用することで、活用に関する課題の抽出や改善策の提案などをおこなう事業に対し、調達費の一部を助成する
参考:JAS構造材実証支援事業
品質を保証することにより中高層建築物などへの活用をはじめ普及を図るJAS材ですが、現状はどうなのでしょうか。この章では、JAS材普及の現状や未来の可能性について解説します。
JAS制度に基づく認証を取得している事業者は、合板工場では7割以上あるものの、製材工場では1割程度に過ぎないのが現状です。そのためJAS構造材に対する関心と注目が高まる一方で、供給体制に不安が残ります。
参考:林野庁
ZEHなどの高性能住宅の普及によって住宅そのものの重量が増えていることもあり、今後、構造材への信頼性はますます重要になってきます。その点、JAS材は強度特性が明らかになっているため構造計算にも対応でき、安定供給が可能であれば自然と普及していくかもしれません。
実際にJAS構造材を活用した実例をご紹介します。実例からは、JAS構造材の普及拡大に向けての課題を解決するさまざまな工夫と、特徴を生かした技術を垣間見ることができます。
「美馬旅館はなれ・木のホテル」は高知県南西部にある宿泊施設です。地元のヒノキJAS製材でくみ上げた独特の工法で、開放的な木造建築が特徴になっています。柱と横架材、垂れ壁、腰壁を一体化した「壁ラーメン構造」という新しい工法で建築されました。
建物の規模的には必ずしもJAS材である必要がない建築物にJAS材を利用したのは、品質の裏付けがあることに加え、この新工法の採択が理由です。JAS材によって品質が担保された壁ラーメン構造の実証プロジェクトでのあったこの建築を元に、2019年に高知県林業活性化推進協議会は壁ラーメン構造の設計マニュアルを作成、公開しました。
不動産デベロッパーのヒューリックが手がける銀座の耐火木造12階商業ビル「HULIC &New GINZA 8」は、木造架構と鉄骨フレームのハイブリッド構造で建築されました。
大規模な木造建築における現状の課題に、材料調達でコスト高になる点があげられます。しかし、HULIC &New GINZA 8では木材と鉄骨を使い分けること、補助事業に認定されることにより、コストの削減を実現しています。
また福島県白河市の森林組合と連携して木材を調達し、同時に使用したスギと同量の植林をおこなう活動もおこなっています。健全な森林資源循環と国産材のサプライチェーン構築に関しても参考となる実例ではないでしょうか。
参考:日経クロステック
北海道にある厚浜(コウヒン)木材加工場は、地域のカラマツから加工されるJAS製材を構造材に利用し作られた木材加工場です。間口15m、奥行き30mの木造平屋建てで、中に柱はありません。
カラマツのJAS製材を広くアピール出来るような特徴的なデザインもさることながら、できるだけ一般流通している製材・集成材を取り入れ、コスト削減に成功しているところが注目すべき点です。地域の特色である畜舎や商業施設などへの普及拡大に向けて、地域材の特色を生かしながらコスト減を実現できるロールモデルとなる実例です。
2010年に「公共建築物等木材利用促進法」が施行されてから、中高層の大型建築物や非住宅への建築へも木材の利用が広がってきました。今後、大型の木造建築の普及の拡大を進めるためには、品質が担保されたJAS構造材の安定的な供給が欠かせません。
性能が明確化されたJAS材は性能ごとに適材適所に利用することで、大量の調達が必要な時にも効果を発揮します。さらに今後、JAS材の普及と活用を促進するためには、設計段階からの、川上、川中との連携をいかに作れるかが重要な要素となることでしょう。
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