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国土の約7割を占める日本では、住宅や家具、箸などあらゆる場面で木材を使ってきました。昨今、森林からの恵みである木材は、天然物であり再生産可能な循環型資源として社会から期待の目を向けられています。
また、森林の密集化を避けるために伐採された間伐材も、再利用の観点から利用推進が図られています。
今回は、この間伐材について詳しく解説していきます。
上記の方に、おすすめの内容となっておりますので、ぜひご一読ください。
目次
間伐材とは、間伐によって得られる木材のことです。間伐とは、平たく言えば植えた木の中から何本か伐採し、生えている木の間隔を広げる伐採手法になります。
この間伐は、目的によって大きく2種類に分けることができます。
それが「定性間伐」と「定量間伐」になります。
定性間伐とは、立木の状態や隣接木との位置関係を現地で確認しながら、一本一本選定しながら間伐する手法です。定性間伐にも種類があり、下層間伐と上層間伐があります。下層間伐は劣勢木を中心に間伐する方法で、優勢木の生育を促進させる効果がありますが、間伐の収益性は低いのが特徴です。
また、上層間伐は優勢木を中心に間伐する方法で、材価の高い個体を選定するため間伐の収益性は高いです。しかし、しっかり管理された森林でなければ、間伐後の森林経営健全化が難しくなるおそれがあるので、注意が必要です。
一方、定量間伐とは、伐採木の選定を重視せず、間伐率に基づいて機械的に間伐する方法です。代表的な定量間伐は列状間伐とよばれる間伐方法で、列状に間引いていきます。低コスト化や高い労働安全性が見込まれるため、採用されるケースがあります。
間伐材を使った製品には、間伐材マークがついているものもあります。これは、間伐や間伐材利用の重要性を発信していくとともに、一般消費者に間伐材製品の選択を促すためのものです。
間伐材マークの製品を購入することで、日本の森林整備・保全に貢献していることにつながります。
それでは、間伐材を使った製品にはどういったものがあるのでしょうか。間伐材マークが入った名刺や、封筒、チラシなどの紙類はよく目にしますが、実際の木材として活用している事例はあまり目にしません。
そこで本章では、間伐材の使い道についてご紹介します。
無垢の間伐材は一部の建築現場で使用されますが、それ以外は集成材やパーティクルボードなどの木質建材として利用されます。また、間伐材は公共建築物にも使用され、学校の床板や間伐材ストランドボードなどがあります。
大手ゼネコンの大林組などは、東京大学と共同で間伐材小径木を活用したシステム工法による木造仮設建築の開発を行っており、間伐材を建築に利用していこうという取り組みもなされています。
参考:環境配慮型仮設工事事務所「ECOサイトハウス」建設・運用の実証試験を開始|大林組
住宅会社であるアキュラホームは間伐材を使ったストローの開発を行い、2019年1月にザ・キャピトルホテル東急に導入されました。このストローは、環境ジャーナリストの武田有里氏から構想が練られたことから始まります。そして、アキュラホームが企画・開発、ザ・キャピトルホテル東急にて製品化に向けた監修を行ったことで実現しました。
鉋の薄削りからヒントを得た木のストローは、木材を薄くスライスし、斜めに巻き上げることでストローにしています。
参考:株式会社アキュラホーム
間伐材を用いたノベルティーも数多くの商品があります。スマホスタンドやコースター、うちわ、扇子など様々です。
小さい径でも作製できるノベルティーは、不揃いな径で搬出される間伐材と相性がよいため、有効活用が期待できます。
四万十町森林組合(高知県)は、四万十ヒノキの間伐材を使った家具ブランド「SHIMANTO HINOKI FURNITURE WORKS(SHFW)」を展開しています。四万十川一帯の降水量は東京や大阪の2〜3倍で、上質なヒノキが生育しています。
SHFWは、ヒノキ本来の質感や色味を活かすために最低限の塗装と加工に留め、ヒノキの魅力を最大限に引き出す家具を提供しています。
参考:SHIMANTO HINOKI FURNITURE WORKS
また、オフィス家具メーカー「株式会社イトーキ」は、家具作りに地域材を活用するソリューション「Econifa(エコニファ)」を通して、循環型社会の実現に取り組んでいます。間伐材を含め地域の木材を活用した家具や内装をふんだんに使い、オフィス・大学・病院・役場などに、心地よい空間を作り出しています。
オフィスや店舗の設計・施工を手掛ける「株式会社文祥堂」では、間伐材の形をそのまま生かした家具「KINOWA」を製作・販売しています。さらに、国産材・間伐材の活用を推進する仲間を増やすため、家具の図面をインターネット上に公開するという取り組みも行なっています。
間伐材は、身近な生活用品にも使用されています。
大手コンビニチェーン「セブンイレブン」では、コーヒーを入れるホット用カップに間伐材配合の紙を使用しています。
凸版印刷が開発した「カートカン」では、国産材を30%以上使用した紙製の飲料容器を飲料メーカー各社が採用しているため、一度は手に取ったことがある方も多いのではないでしょうか。
プラスチック製や金属製のものをよく見かける遊具ですが、間伐材を活用する取り組みもみられます。
滋賀県立大の環境建築デザイン学科と生活デザイン学科の学生でつくる「多賀木匠塾」は、地元多賀町産の木材を使った木製遊具を、保育園や公共施設に製作・提供しています。
活動は継続的に続いており、2019年度の間伐・間伐材利用コンクールでは賞を受賞しています。
参考:令和元年度(2019年度)間伐・間伐材利用コンクール|林野庁
脱炭素社会の実現に向けて、木質バイオマスのエネルギーとしての活用が進められています。
特に、地域内の木材資源を有効活用し、需要と供給のサイクルを持続的に回していくことが重要です一例として挙げられるのが、青森県新郷村の「木の駅プロジェクト」。未利用の間伐材や枝などを「木の駅」に集めて薪に加工し、村営の温泉施設で買い取るというものです。
温泉施設では、買い取った薪をボイラーの燃料にして暖房や給湯をまかないます。木質エネルギー地産地消に加えて、林業の活性化と森林所有者の所得向上も同時に目指す取り組みです。
間伐はSDGsと密接に関係しており、複数の目標にまたがっています。間伐によって、下層植生が生い茂り、表面土の流出が抑制され豊かな土壌環境が形成されます。これは目標15の「陸の豊かさも守ろう」や目標11の「住み続けられるまちづくりを」にもつながります。
間伐材や林地残材(木を伐採した際に、林地に放置される材)の、発生量に対する利用量の割合(利用率)は、2019年には約29%であり、2030年には33%以上を目標としています。
バイオマス発電の燃料として利用が拡大しているため、さらに利用は拡大されていくと見られています。端材や解体材は、共に利用率が95%を超えていることを考えると、間伐材はまだまだ利用の余地が残されているといえるでしょう。国内民有林の間伐材の利用用途は、建築材や梱包材などの「製材」と、木材チップやおが粉などの「原材料」に二分されます。
ここ十数年で、「原材料」への利用量は2倍以上に増加しており、木質バイオマスエネルギーとしての活用が進んでいることが伺えます。
間伐材の有効活用は、森林の適切な整備・保全を促します。
端材や解体材に比べると、低い間伐材の利用率。間伐を行わない理由に、不採算性と人手不足が挙げられる現実から、利用推進には間伐作業の効率化・低コスト化が必須といえます。
国内私有林は小規模零細な所有形態が多数を占めるため、個々で間伐を行うことは非効率です。林内作業道の共有、作業箇所・作業時期の集中と基幹林道の整備による大規模な搬出などで、施業を集約し、コストを低減することが求められています。
また、作業の効率化や負担軽減のためには、従来のチェーンソーや刈払機などに代わり、自走式の高性能林業機械の導入が必要です。
参考:間伐・間伐材利用を推進するために必要な取組|林野庁
間伐は良質な木材を生産するためには欠かせない森林施業です。それだけでなく間伐は森林にも大きなメリットをもたらします。本章では、森林にもたらすメリットをいくつかご紹介します。
間伐を行うことで、スギやヒノキの根が深く張れるようになり、下層植生を豊かにする効果があります。下層植生の存在は山の土壌表面に直接雨が当たるのを防ぎ、地表流の発生を抑制し、洪水や土砂流出の制御に寄与するとされています。
また、スギやヒノキの根が深く張ることによって土のすべりに対するせん断力抵抗力が増し、森林の表層崩壊を防止する効果が見込まれます。一方で、スギ・ヒノキの根系分布の調査は少ないため、確実に表面崩壊が防止されると断定されてません。
しかし、間伐を行うと10〜30年生の森林or人工林において単位面積あたりの根の材積が、未間伐の森林or人工林より多くなる傾向がみられており、さらに立木の密度を下げると1本あたりの根の材積は確実に増加することが分かっています。
参考:日本森林学会誌 92:145-150・日本緑化工学会誌 42-2:299-307
森林へ降った雨は、樹冠によって受け止められて蒸発したり、林床へ届き地中に浸透したりと様々です。また、地中に浸透した雨も樹木の蒸散によって大気に還元されるものと河川へ流出するものに分類されます。
間伐と未間伐の森林を比較すると、間伐を行った森林の方が水の流出量が増加するといわれています。これは、間伐によって日射が林床面まで届き蒸発量は増加するものの、林床への水分供給量が増えると同時に、立木の減少により蒸散量が減るためと推察されています。
すなわち、間伐は森林からの蒸発散量を抑制し、水資源を充実させ水源涵養(かんよう)機能の向上に寄与するものと考えられています。
適切な間伐を行うことは、森林の多面的機能の発揮や上質な木材を生育させていくことにつながります。では、間伐材を利用していくうえでのデメリットや問題などはあるのでしょうか。
間伐材利用のデメリットとして、必要サイズの材調達が困難であることがあげられます。上層間伐であれば、優勢木の間伐がメインなので建築用材でも比較的求める寸法の手配が可能でしょう。
一方、下層間伐や定量間伐の場合は、あくまで優勢木の生育を促進させるための劣勢木間伐、あるいは選定を行わない機械的な一斉間伐など、材利用を目的にしていないため求めるサイズが調達できない可能性が高いです。
材利用を目的とした間伐、優勢木の良好な生育を目的とした劣勢木間伐がある中で、やはり世間は後者を間伐と認識する方が多いでしょう。実際、間伐材利用と聞くと「本来なら捨てられる木材を使っている」という認識をされ、粗悪品のイメージが根強く残っています。
しかし、上層間伐のように優勢木を間伐し利益増大を図る間伐方法もあるので、漠然と「間伐材=粗悪品」というイメージを変えていく必要があると思います。
以下のグラフは、スギの山元立木価格、丸太価格、製材品価格(未乾燥)の推移を示した図になります。山元立木価格とは素材生産者(伐採・搬出業者など)が森林所有者に支払う金額であり、森林所有者の収益となりうる金額になります。
この収益は次世代に向けて森林整備を行う資本となるのですが、グラフからも読み取れるとおり丸太価格と同じく年々下落しています。森林を育ててもほとんどお金にならない現状から、森林所有者の意欲が削がれ、間伐や再造林といった森林整備を行わなくなってきました。同じく、丸太価格の下落によって素材生産者への利益も減少しています。
そのため補助金などが充てられ、少しでも森林整備を促すような策が行政主導で行われるようになりました。しかし、現状、間伐材の搬出は人件費や森林作業道の作設費などを考慮すると赤字になっており、補助金によって賄われているケースがほとんどです。
先程も述べたとおり、山元立木価格と丸太価格は年々下落の一途を辿っています。それに伴い森林所有者や素材生産者、すなわち川上の利益も減少しています。この解決策になりうるのは、山元立木価格と丸太価格の上昇だと考えられます。
間伐はあくまで適切な森林整備を行う施業の一種であり、川上にとっては間伐材を利用してもらうために間伐するケースは稀です。川上としては、間伐や枝打ちなどによって手入れされた木材を高く買ってもらうというのが本意でしょう。
一方、間伐材を利用してもらうことについては、これまで売上が立たなかった木材の収益化につながるので、少なからず還元には寄与すると考えられます。
今回は間伐材について、その使い道やSDGsとの関連、抱える問題などについて解説しました。サステナブルの観点から、間伐材は今後ますます注目されていくものと考えられます。
森未来は木材情報を集約したプラットフォーム「eTREE」を展開しています。 その中でも、全国の木材事業者・木材加工業者とのネットワークを生かしたプロの木材コーディネーターが、間伐材をはじめとしてあらゆる木材の調達・加工・活用をお手伝いします。不燃突板シートや木粉塗り壁材など無垢ではなく加工処理した間伐材も提案できますので、木材の調達・加工・活用にお困りであればぜひご相談ください。
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