
サステナブル
木造建築の設計において、木材の品質をどのように確保するかは重要なテーマです。
特に、2025年4月の建築基準法の改正と、そこから遡る2020年の建築士法の改正を合わせて考えることで設計者の責任が明確化され、適切な材料選びがこれまで以上に求められています。
JAS構造用製材は品質が客観的に証明された材料ですが、設計現場での活用には課題があります。
今回、JAS構造用製材を活用した非住宅の木造建築の設計にも取り組み、各地でセミナーや勉強会での講演を務めるアトリエフルカワ一級建築士事務所の古川泰司氏に、4号特例の改正を踏まえ、設計者がJAS構造用製材をどのように活用するべきかを解説いただきました。
目次
1963年 新潟県生まれ
武蔵野美術大学、筑波大学修士課程
アトリエフルカワ一級建築士事務所 代表
木を生かした「森とつながる建築」の設計を行う、木造・木材コーディネーター。また、住宅医の資格を持ち、中古住宅の改修も数多く手がける。JAS構造材を活用した非住宅の木造建築の設計にも取り組み、各地のJAS構造材セミナーや勉強会での講演を務める。
インタビュー:JAS構造材の未来と可能性
記事:設計者から見たJAS製材品
古川氏
千葉県で住宅を設計したときのことです。地域の木を使いたいという要望を受け、森へ足を運び、木を選ぶところから行いました。そのため、木材の品質の自主管理の必要性を感じ、自ら機械を用意して含水率やヤング率を測定したんです。この時は設計者としての”責任”として狭いエリア内での品質管理でした。しかし、このような取り組みは個々の設計者が行うだけでなく、より多くの人が共通の基準で品質を判断できる仕組みが必要になる。それが、私がJASと出会ったきっかけです。
建築基準法の改正により、通称「4号建築の特例」が廃止されることが決定しました。これにより、200㎡以下の2階建て木造建築などにおいて、これまで免除されていた審査項目が適用されるようになります。
改正が発表される前から、建築に使用する木材はJAS材または国が認めた木材に限定されてはいましたが、今回の改正で、従来の無等級材の使用が制限されるのではないかとの懸念がありました。しかし、実際には木材の品質そのものが審査の対象とはならず、また伏図(プレカット図)の添付も不要とされました。
とはいえ、品質の重要性が軽視されてよいわけではありません。実際、令和2年の建築士法の改正では設計図書の保存義務が導入され、伏図の保管が義務付けられています。これは、木材の品質に対する責任が設計者にあることを示すものであり、古川氏はこの変化を重要と強調しています。
しかし、「木材の品質の責任は設計者が負う」と言われても、実際に建築を依頼する施主にとっては、それがどのように担保されているのか分かりにくいのが現状です。設計士が適切な木材を選ぶためには、その前段階として、信頼できる木材の提供が不可欠です。そのためにも、JASという共通言語が広く浸透し、建築士と木材供給者が確かな品質を基準に連携できる仕組みが当たり前になっていくべきではないでしょうか。
木造建築では、含水率やヤング率(木材の剛性)といった木材の物理的特性が重要です。含水率は時間とともに一定の値まで低下させることができますが、ヤング率は個体ごとに異なり、慎重な選定が求められます。そのため、ヤング率による区分をひとつの基準とするJAS構造用製材の活用は、品質を確保し、その責任を明確化します。
しかし、現状では以下のような課題が指摘されています。
JAS構造用製材の資格を持つ製材所が限られており、供給量が少ない状況にあります。
古川氏
しかし「少ないから使わない」のではなく、「使いたいと設計者が声を出してゆくことで増やしていく」という意識が必要です。設計者のJAS材を使うという責任の意識が生産者を多くしていくはずです。
同一名称でも材木屋で使われる木材の名称とJASの基準が異なるため、現場で混乱が生じることがあります。この図はJASの材面の規格ですが、JASが広く普及するためにはこのような用語の混乱は整理していく必要があります。
目視等級区分(節を基準にする)と機械等級区分(ヤング率など物理特性を測定する)が混在しており、どちらの基準で考えるのか設計者は適切な選定が求められています。
非住宅建築では、より高い強度(ヤング率E70〜E90)が求められますが、これは目視等級区分では「無節」に相当します。しかし、機械による等級区分を行うことで、節があっても高い強度を持つ木材を適切に活用することが可能になります。
古川氏
例えば、E90の強度を持つ節のある木材が、目視等級ではE70と判断されてしまうことがあります。これは、せっかくの強度を活かしきれないという意味で「もったいない」状況です。機械測定による等級区分を進めることで、強度に基づいた適材適所の活用が可能になります。ただし、機械測定には設備投資が必要であり、コスト面での課題も残されています。
現在、日本の森林には60年以上経った木が豊富にある一方で、植林が進まなかった時期の影響で、次世代の資源が不足する懸念があります。さらに、丸太の価格が低すぎるため、適正な森林経営が難しくなっているという課題もあります。
JASによって品質が適正に評価され、木材に付加価値がつくことで、適切な価格での流通が可能となり、森林整備に還元できる仕組みが整うのではないでしょうか。
具体的な活用事例として、古川氏が実際に手がけた保育園の木造建築が紹介されました。小さな子どもたちが生活する保育園では、内装制限などの課題があります。
古川氏
不燃処理のために化学物質を表面塗布する方法は、一般的な建築では問題になりませんが、保育園では慎重な対応が求められます。そのため、構造自体を工夫する必要がありました。JAS構造用製材を適切に活用し、強度の高い木材をその特性に応じて適切に使うことで、準耐火建築としての実現が可能になります。
また、鉄を組み合わせた構造やCLT(直交集成板)の併用といった設計の工夫も選択肢のひとつです。これにより、木材の強度を最大限に活かしながら、耐久性や安全性を確保することができます。
さらに、生産地とのコミュニケーションを深め、設計者が産出される木材の傾向を十分に理解することが重要になります。
例えば、機械測定によるヤング率のデータは正規分布することが知られていますが、これは地域ごとのデータを蓄積していくことでその地域の木材の特性が明らかになります。こうしたデータは設計段階でとても重要であり、精度の高いデータからより精度の高い設計が可能になります。
今回のセミナーでは、JAS構造用製材の活用が木造建築の品質向上や設計者の責任の明確化、さらには森林資源の有効利用につながることが示されました。今後の木造建築におけるJAS構造用製材の重要性を改めて認識する機会となったのではないでしょうか。
JAS構造用製材の普及に向けては、
①生産体制の強化、②設計者・工務店・製材所の連携、③4号特例改正後の品質管理体制の確立
といった課題が挙げられます。
特に、生産体制の強化の点では、製材・乾燥・格付けの分業化を進めることで、生産性を向上させることができるのではないかという話も挙げられ、JAS構造用製材の普及が日本の林業体制の強化に貢献することができるのではないかと感じました。
また、木造建築の持続可能性を考える上で、「木材を多く使うこと=持続可能」とは限らない点も古川氏は指摘しています。
古川氏
木材をたくさん使うことが、必ずしも持続可能なわけではありません。
木材は成長する資源として持続可能な建築を実現します。ただし、それも無限にあるわけではありません。木材資源は限られたものであると自覚する必要があります。限られた資源の中で、少ない材でも十分な強度を確保できれば、他の建築物の木造化につなげることができます。一方で、高度な加工が施された木材(再構成材)は機能性に優れるものの、歩留まりが製材が50%に対して30%ほどと木材利用率が低くなるという課題もあります。JAS規格を満たした一般的な木材を適切な設計と組み合わせることで、より持続可能な建築は実現できます。
JASという基準で今ある木材の品質をデータ化することは、新しく機能を持つ木材(再構成材)を開発することよりも性急に行われるべきなのではないでしょうか。
今後のJAS構造用製材を活用した持続可能な木造建築の拡大は、こういった意識の変化が鍵を握ると感じました。
一方、JAS材は性能評価の認証であり、持続可能性という観点から見ると森林認証もあります。ただでさえ複雑なJASに加え、森林認証も。となるとわからなくなる方がほとんどなのではないでしょうか。
伝え方やわかりやすさも今後の課題となってくるのではないでしょうか。
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