業界レポート

記事公開:2025.3.31

製材所の生き残りをかけたJAS製材の可能性

eTREE編集室

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2025年4月の建築基準法改正を機に、構造計算や壁量計算が必要となる木造住宅が増加し、JAS製材の果たす役割は極めて重要になっています。そんな中、製材所がどのように対応し、生き残っていくかが業界全体にとって大きな課題となっています。

こうした背景のもと、二宮木材株式会社の専務取締役 二ノ宮泰爾氏にJAS製材の現状や意義、そして今後の可能性について詳しくお話をお聞きしました。

二宮木材株式会社 専務取締役 二ノ宮泰爾氏のご紹介

1974年 栃木県那須塩原市生まれ
2002年 二宮木材(株)入社
北関東製材協議会会長
国産材製材協会理事
JBN・全国工務店協会国産材委員会委員長

二宮木材では、木材の品質を客観的に担保するため、機械等級区分をはじめJAS認定を複数取得している。構造材から羽柄材や下地材などまでJAS規格の製品として供給できる体制を整えている。
記事:最先端設備の加工力と富な在庫量で幅広いニーズに応える二宮木材

JAS製材の需要と現状

二ノ宮氏

「1.2倍」ーーこれは、二宮木材におけるJAS機械等級材の出荷量の前年度比でどれだけ増えたかを示す数字です。JAS製材の需要が確実に高まっていることを日々実感しているものの、「使いたいのに使えない」という状況も見受けられます。
実際、二宮木材には二日に一回のペースでJAS製材に関するお問い合わせが寄せられています。その多くは、「どこで調達すべきかわからない」というもの。
検索で二宮木材を見つけ、直接連絡してくるケースも増えています。

去のインタビューで、アトリエフルカワ一級建築士事務所の古川泰司氏はJAS製材の課題として、生産者の不足をあげ、「少ないから使わない」のではなく、「使うことで増やしていく」という意識が必要と指摘していました。

JAS製材の需要が増えていることは単なるビジネスチャンスではないと二ノ宮氏は加え、安心して使える環境を整えるには、一部の製材所だけで供給を担うのではなく、他の製材所もJAS製材を提供できる体制が理想的であると提案します。供給元が分散されることで、建築業界全体がJAS製材をよりスムーズに活用できるようになるのです。

需要が高まる今、その供給体制の構築が求められています。

JAS製材を安定的に提供できる環境が整わなければ、せっかくの需要も十分に生かされません。二ノ宮氏は、JAS製材を求める声に応えられる製材所が増えなければ、業界全体の成長につながらないと強調します。

供給の仕組みを整え、誰もが必要なときにJAS製材を調達できる環境を作ることがJAS製材の普及における課題となっています。

JAS材の複雑な等級区分

JAS構造用製材は、大きく 目視等級区分機械等級区分 に分かれています。

目視等級区分は、さらに 甲種(曲げ性能を必要とする部材)乙種(圧縮性能を必要とする部材) に分類され、節の大きさや材面の品質によって 1級から3級 に細かく区分されます。一方、機械等級区分では、ヤング率などの物理特性を機械で測定し、強度を評価します。ただし、機械等級材であっても、目視等級 3級以上 の基準を満たすことが前提となります。
このように、JASの規定は非常に細かく、これらの等級区分に加え、節の割合の測定方法や数え方にも詳細なルールがあります。こうした厳格な基準をクリアすることが、JAS製材の 信頼性の証 となります。

JASの改正が決まっており、特に機械等級区分において大きな変更が加えられます。

具体的には、未仕上げ材の区分が削除されるほか、ヤング率の測定方法や寸法許容差に関する規定も見直される予定です。

JAS取得のコストとハードル

JAS製材の認証を取得するには、多額の監査費用 に加え、認証所得後も定期的な検査費用 がかかります。これに加えて、認証のための設備投資や運用コストも必要となるため、特に規模の小さな製材所にとっては大きな負担となります。

二ノ宮氏

今日この話を聞いてJASを検討し始めても、すぐに導入できるわけではありません。JAS認証の取得には、グレーディングマシンの購入や申請に1年以上かかることもあり、 JASが必須となる時代が来てからでは間に合わない のです。

このような状況を踏まえ、製材所が単独でJASに取り組むのではなく、複数社で協力し合うことが重要だと二ノ宮氏は強調します。製材所同士の連携により、安定した供給体制を実現できます。

実際複数社で取り組む事例は増えています。それぞれの強みを持つ製材所同士の協力はJAS製材の安定供給そして、一社だけでは対応することができない大きな注文に対応することができ、結果的に、JAS製材の市場規模の拡大に貢献するはずです。

(ポイント1-3は二ノ宮氏、ポイント4-6は組合の方による)

JASは「国産材の可能性」を広げる

二宮木材は、「機械等級区分」「目視等級区分」「下地用製材」「枠組み壁工法構造用製材」の4つのJAS認証を取得しています。

これは、JAS材の需要がますます高まる時代に備え、安定した供給力を確保し、顧客からの信頼を獲得するための重要な戦略の一つです。

JAS認証を取得することで顧客は安心して木材を購入できるようになり、同時に二宮木材としても、新たな木材需要を積極的に掴んでいくことが可能になります。

二ノ宮氏

忘れてはいけないのは、JAS製材が必ずしも高く売れるわけではない ということです。JASを維持するためには多くのコストがかかる一方で、市場価格がそれに見合うとは限りません。それでも、「JASじゃなければ売れない時代が来る」ことを見据え、長期的な視点での取り組みが求められています。

例えば平角(梁などに用いられる厚さと幅が共に7.5cm以上の長方形の製材品)は日本が抱える大径木問題を解決する有力な候補だと言われていましたが、杉の強度に対する不安から使用されてきませんでした。しかし実際に正確に強度を検査すると杉も十分な強度を持つことがわかり、大手ハウスメーカーによる注文から徐々に広がりを見せていると二ノ宮氏はいいます。

これまで「劣る」と言われてきた国産材も、JASを通じて輸入材にも劣らないというイメージを広めることができます。こうした事実を踏まえれば、国産材を積極的に活用しない理由はないでしょう。

終わりに

今回、二宮木材の二ノ宮氏に製材所の視点からJAS製材の意義と活用を通じた今後の在り方をお話いただきました。

前回の講師である古川氏と同様に、二ノ宮氏も「JAS製材の普及によって限られた木材資源でも十分な強度を確保できる」と述べています。

製材所にとってJAS認証は木材の品質基準を明確にし、国産材に対する評価を大きく変える可能性を持っています。一方で、取得にはコストが伴うため、多くの製材所にとって取得のハードルは決して低くありません。

しかし、JAS認証がもたらす価値は信用度の向上だけにとどまりません。これまで曖昧だった木材の強度などが数値で明確に示され、データで可視化されることで、一製材所単独では難しかった高強度材の供給が可能となります。

さらに、建築業界との情報連携により木造建築での活用が広がれば、結果として森林資源の適切な循環を促進し、日本の持続可能な森林管理の普及にも貢献することでしょう。

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