eTREE TALK
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記事公開:2022.11.4
2020年7月09日
オンライン開催
7/9(木)、eTREE TALK vol.3「木を空間で使うクリエイターの裏話」をオンラインにて開催いたしました。トークセッションの様子を全三回に分けてお送りいたします。
ゲストにお迎えしたのは、株式会社乃村工藝社の鈴木恵千代様と、有限会社加藤木材 加藤政実社長。なんと尾鷲香杉の製造元、畦地製材所の畦地様も飛び入り参加! 香りを持つ木の魅力や木材への熱い思いをお話しいただきました。( 進行:株式会社森未来 代表取締役 / 浅野純平)
鈴木恵千代さん(以下、鈴木): つい最近、改めて木材の面白さを感じた出来事がありました。
無垢材家具直営店KOMAの松岡君という方がいまして、彼のところに用事があったので訪ねたら「しげさんカンナかけにきてちょうだいよ」と。彼らが持っているのは東京で一番切れるカンナなんです。僕が挽いても、6ミクロンくらいの厚みの鉋屑が2メートルくらい出るんですよ。それくらいきれいな刃物なんです。6ミクロンと言ったら1000分の6ミリですから、いかに薄いかって感じじゃないですか。職人が挽くと3ミクロンだそうです。びっくりしたのは、僕は木の表面ってつるつるだから平らだと思っていたんです。ところがさーっと挽いたら向こうが透けて見えて、広げてみたら女性のストッキングのように細かい網の目なんですよ。小口じゃないのにですよ。びっくりしました。こんなマテリアルって他にないです。6ミクロンでスライスしても全部に細かい穴が開いていて、伸ばすとストッキングの網の目のようになるわけですよ。
株式会社KOMA 代表 松岡茂樹さん
> https://www.koma.tokyo/
そのマテリアルをどう使うか。明治の初めまでは木の文明を作り上げた時代でした。今までの先人たちの知恵が山のようにあったはずなんだけど、それを僕ら一回忘れたでしょ。一度忘れてしまうと、木の使い方はなかなかマスターしきれない。そうしてどんどん遠ざかってしまった時期もありましたけど、今また見直されています。木ってあれだけ複雑な構造をしている。完成された構造物なんでしょうね。それをマテリアルとして使う面白さって多分にあると思います。
司会・浅野(以下、浅野): 今後使ってみたい木材の種類はありますか?
鈴木: 使いたい木目のものはたくさんあります。スギやヒノキ、尾鷲香杉もとても良いですが、その他にも、モッコクとか泉桜、ミカン、エゴ、タブの木とかも使ってみたい。まだ木についてよく分かっているわけではないので、幅は広いと思います。あとは、北海道の木も。タブの木などが売れ頃という話がある中で、北海道の木はそれほどまだ扱ったことがない。シラカバなどもあまり一般化していませんが、使いやすい材ではないかと考えています。
浅野: 今仰ったのはあまりメジャーな木ではないですよね。タブの木、ブナ、コナラなど、通常ならチップや薪、あるいは紙のパルプに使われているような原料が多いですね。
鈴木: そうなんです。それだともったいなすぎると私は思います。
浅野: 私も本当にそう思います。
鈴木: もちろん、山や森を産業として捉えている方の話を聞くと、チップやパルプに大量に使ってしっかりと流用数を多くする使い方も一理あるのですが、住宅系も木材を大量に使うじゃないですか。例えば、今CLTという素材が出てきています。このCLTを使った建築に、横畠さんという方が設計した高知県香南市の「にこなん」という子育て支援センターがあります。この空間がものすごく良い。高知県産のスギを岡山県でCLTにした、その素材だけで屋根に至るまで全ての内部の空間が出来上がっています。僕が内装に板を使ったりカウンターにスギを使ったりするのと比較にならないほど、膨大な量の木材を使っているんですよ。住宅関係の方々の力でどんどん木を使うことで、サステナビリティに近づいていると思います。僕らとしては、現状ではウッドチップで燃やしてしまうことが多い漆やコナラに着目すると、使い方次第で面白いと思っています。
#CLT
CLTとはCross Laminated Timberの略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。
鈴木: 皆さん同じ気持ちだと思うんですよ。そもそも3×3 Lab Futureで、なぜ木を使おうと思ったのかというと、自社の井上成というプロデューサーも木をたくさん使った空間を作りたいと言っていたんです。理由を聞くと、山でいい材がとれるのにその材が山からは出せない状況を知って、でも何とか利用をできないだろうかと考えていたから、それが頭を占めていたと。僕自身も、いろいろな樹種が頭の中にあって、どうやって利用すればいいのかと考えていました。捨てちゃうのはもったいない、もったいない。まだ使えている種類は10種類20種類でしょ、木材は実は100種類もある。まだ遊びきれていないですよね。
加藤政実さん(以下、加藤): 先ほどから「山は生き物だ、もったいない」と5回6回おっしゃっていますが、僕は、だから恵千代さんが好きだし、勉強させてもらっています。今の建築士さんの多くは、木をマテリアルの一つとしか見ていない気がします。命としてみていない。アルミニウム、プラスチック、木、と同列に。畦地君が冒頭のところで娘だと言っていましたが、木は命だというのは、百歳の木なら百年前に植えて育ってきたものですし、木材になっても命を持っていると思うんです。考えれば、俺らも命じゃないですか。命ある生き物が心地よいと思う空間を作るのに、命あるものを何も使わずに、カタログの品番を選ぶだけが設計になってしまっては良くない。やっぱり「命だ」という意識が大切じゃないかな、と僕は思うんですけどね。
考えていくと僕らって、他の命を絶たないと継続して生きていけないじゃないですか。食べ物はもちろん、魚も肉も野菜も、命をいただいて食べる。木材だって、成長を前提としている命を伐らせていただいて、私たちのライフスタイルの中に使わせていただいて、心地よさを享受させていただいている。そこにはまた命があると僕は思っていますが、命を考えれば、変な話ですが死についても分かってくる。僕らは殺さないと生きていけないし、木だってそうやって伐っている。それなのに木をマテリアルとだけみる人ばっかりになっちゃっています。アテリアルだけど、命でもあるんです。
鈴木: 命あるものが作り上げた素材ですよね。
浅野: 質問も来ているので、御二方に聞いていきたいと思います。木材調達をされる際、恵千代さんやデザイナーの方に、サステナブルな調達をするという意識は浸透しているのでしょうか。
鈴木: うちの会社はフェアウッド宣言をしています。できるだけフェアウッドを使う、という意識は持っています。でも、どこの森がサステナブルな森か、まだはっきりと分からないことが多いと思うんです。
例えば、皆伐された山を見ると、環境系の人は全部伐っちゃったと動揺するわけでしょう。でも畦地さんのところの尾鷲に行っても、皆伐している山が結構ありますよね。そもそも、なぜこんな急峻な山にスギの木を植えちゃっているんだろうと。どうしたら今後良くなるんだろうかと。簡単には伐り出せないとこに植えちゃったわけなんですね。昔一生懸命、その斜面を今後どうしていったらいいのかと考えた。そうやっているわけだから、皆伐している森でも、もう一度ちゃんと復活するんじゃないかと思うんですよ。それを待つ。森林伐採はダメだとか皆伐はダメだとか、総合的な視点ではなく中途半端に判断してしまう面がまだまだあると思うんです。僕もまだまだ分からないんですよ。となると、サステナブルに調達しようと考えたとき、現時点で既にある程度お墨付きのついている材をなるべく使っていくということくらいしかない。
加藤: 難しいですが、日本では畑感覚で山を管理しています。ホウレンソウをいただくような形でスギ、ヒノキをいただく形になっている。これは逆に世界ではほとんどされていないことじゃないですか。問題は、再生がなかなか難しい熱帯雨林を伐採してしまうことや、山の畑と違って自然界の中でしかなかなか更新できない木を勝手に持ってきて日本で使いつぶすことです。日本の木が全部オッケーと言うつもりはありませんが、少なくとも日本の木を使うことは環境にとって重要なことだと思います。
浅野: 両立ができる唯一の方法ですよね。
加藤: 広葉樹化については、例えば針葉樹の杉だと100年くらいで形になるから、孫の顔を見ながら「こいつの頃は」という感じですよね。それが広葉樹だと200年300年経たないと伐採できませんから、なかなか日本では計画植林されていません。やはり日本の広葉樹化に関してはやっぱりちょっと守り気味の形でいって、さらに計画植林していくシステムがあればよりいいなとは思いますけどね。
浅野: 畦地さんにもお伺いしたいです。実際に伐採製造している畦地さんは、サステナブルな木材調達についてどうお考えでしょうか。
畦地製材所 畦地秀行さん(以下、畦地): まずサステナブルかどうかという前に、例えば、冒頭で鈴木さんが海の砂漠化に触れていましたが、例えば海の定置網というものがありますが定置網漁をする海の真正面には必ず原生林があるんです。植林された山ではないんですよ。
加藤: 魚付き林ですね。
畦地: そうです。いったん人工林になってしまったら、本当の意味でのサステナブルを実現するのは難しいと思います。人間がずっと手を入れ続けなくてはいけないという問題もありますし。林業は5代10代と続いていますから、針葉樹だと葉っぱを落とさないので地力が落ちて、成長が遅れてきている問題が今現にあるんですね。おそらく20年30年後には、思ったより木が成長しないことが問題になる。その未来がもう見えてきています。どの部分を考えてサステナブルなんだろうと。ただ更新していくだけがサステナブルなのか。何をサステナブルとするかは大事な話だと思います。
浅野: そうですね。環境自体もそうですし、林業家が経済的に自立できることもサステナブルの中には必要になってきますよね。
浅野: 林業に関して、質問が来ています。木材を用いた事業を開発していく際に日本の木材産業においてグローバルに展開していけそうな分野はあるのでしょうか。
加藤: あるある。恵千代さん冒頭で少し言っていただいて嬉しかったのですが、香りのある木って世界中にほぼないんですよね。命のしくみというのが地球上にあって、ヨーロッパのように乾燥した長い冬があった方が環境要因の変化が乏しいから種族をたくさん増やせるんですよ。ホワイトウッドとかものすごい数あるし、カナダなんか同じ木ばっかじゃないですか。一方で、熱帯雨林に行くとものすごい紫外線と雨と台風があり、環境要因のプレッシャーが激しいから、しぶとい命しか残らないんです。そして多湿の森の木は香る木なんですよ。ヨーロッパでアロマセラピーの文化があるのは木には香りがないし花はすぐ枯れてしまうからですよね。
前イベントで、5,600人くらいの人に調査をしたら97パーセントの人がスギの香りは良いと答えたんですよ。97%の支持率の香水なんてこの世にないでしょう。僕らの先祖はアフリカ大陸の樹上の霊長類だったわけで、僕らの遺伝子に多湿な木の上の香りを求めるようにプログラミングされているんじゃないでしょうか。スギの香りはそのくらい世界中の誰でも良い香りだねと言ってくれます。
木材を渡すと日本人は鼻に持っていきます。しかし、私は20カ国、30カ国の人に会っていますが、ヨーロッパでもオーストラリアでも、みんな鼻には持っていきません。CO2も使わずただ木をぺたぺた貼るだけで、しゃきっとするヒノキの香りだとか、鎮静効果のあるスギの香りが使える、これは日本人のクリエイターにしかできないことです。木材に香りがあるって彼らは知らないですからね。世界で勝負できると思います。
適材適所って言葉は植物利用の言葉ですが、英語になるとright placeって人材になってしまいます。力のある植物が外国にはないからですよね。植物の数と質のバランスが取れた奇跡の島なのに、日本の木はまだまだ使われていない。
浅野: 香りのある木という観点から見ても、輸出にチャンスがあると。確かに、クライアントに木のサンプルを渡すと100%鼻に持っていきますね。
加藤: うちでは木のはがきも作っていますが、郵便局に持っていって渡すと必ずと言っていいほど鼻に持っていきます。でもこれが外国の方になると、プリーズと言って促さないと鼻に持っていかないですよ。その上、フレグランスを注入したんだね、グッドアイディアなんて言われますから。
浅野: 林業・木材産業の伸びしろや課題について、考えをお聞かせください。
鈴木: 去年あたりから社会の流れが変わったと感じています。前はただ木を使いましたというだけで止まっていましたが、木を使った空間の良さは一体何なんだろうというところまでデザイナーの木を使う意識レベルが上がってきたんです。まだまだこれからだと思いますが。
例えば、畦地さんのところで直径一メートルくらいの立派な木の根元にはとび節があって使えないというんですよ。でも木の重量を支える目の詰まった蜜で立派な材なんです。そういうのを使えるようになればまた変わってくる。このような、まだデザイナーが知らない知見を持つ人たちがまさに今、大変な状況で山仕事をしているから早めにつながった方がいい。デザイナーにとっても面白い宝の山じゃないかと思います。
加藤: 現状ではここまで日本の木が使われていないですから、もう伸びしろしかない。ここはスギが合うんだね、ヒノキがいいんだねということが分かっただけではなくて、そのスギやヒノキの質はどうなんだと。適材適所だけでなく質にもこだわって、一部だけでも質を理解してよいものを使ってほしい。クライアントを連れて山に来ていただいて、伸びしろを自分で発掘してきていただきたい。僕がいくらでもご案内します。
浅野: 最後、とても良い質問が来ていたので関連してお二方にご質問させて頂いて閉めたいと思います。これからもっと国産材を使ってもらうために、誰に何を伝えるのが一番良い方法でしょうか。
加藤: スギに関しては偉そうに語っていますが、例えば、僕も八百屋に行けば野菜選びの素人です。世の中の構図として、どうしてもクライアントはスキルがなくて、お金をもらうプロ側の方がスキルがあるわけですよね。だから、クライアントには安けりゃいい、外国の木でもいい、木目の印刷でもいいと言われるかもしれないけれど、それをそのまま受け取って効率的に金さえ回せればいいというのではダークサイドに落ちてしまうと思います。
結局、発注者の方に日本の木の家、木の空間が欲しいと思ってもらうことしかない。現状の日常の中ではなかなか困難なことの連続かもしれませんが、諦めてしまうとダークサイドに転落してしまうので、やっぱり木の命だとか質だとかがわかる人間でありたいですよね、と提案し続けていくしかないです。
スギ、ヒノキがほしいってマーケットを今は誰も作っていない。そこを走っている中で他の追随を許さないというより、振り返っても誰もいない。今は浅野さんが走ってるから二人で走っていくことになるでしょうが。やっぱり、木の空間は圧倒的な支持率があって求められているのに、こんなに使われてない、ミスマッチがある。「今度のボーナスでスギが欲しいんだよなあ」とみんなが独り言を言うようにしたいですよね。伸びしろしかないわけです。
直接的には恵千代さんからお金をもらってもそれは預り金で、お金はクライアントから出ているわけですから。クライアントの満足や幸せの問題ですから、クライアントに粘り強く提案していくと。
浅野: 恵千代さん、設計士はある意味クライアントと森をつなげる仕事でもあると思いますが、その辺に関しては国産材を誰にどう伝えていけばいいと思いますか。
鈴木: 設計士はクライアントをその気にさせる力を持っていますし、時代の答えを引き出してこうあるべきだというデザインをしていきます。時代にこたえることがデザインの役割なので。その中で、やっぱりクライアントが一歩近づいてくれるとそこが成立しやすいんですね。木を嫌いな人はいないと思うんですよ。山が荒れていたらなんとかできないかと多くの人が思うはずです。さらに今はこれだけ木の値段が下がっていますし。空間を作る時にその人が森とちょっとでも繋がっていれば、それこそすぐに使う予定はなくても例えば畦地さんの所を見学して木っ端とか見れば面白いと思うんですよ。何かそういうきっかけがあれば、木を使いたいなと思うと思うんですよね。
それから、現状では設計士が木は良いですよと言ってもエビデンスがない。加藤さんが香りが良いと言っても、数値では示せないわけです。そこをちゃんとしないと、設計士もクライアントに木材を使うべきだと提案しにくい。国の方もそういう形で木に対する実証をしてなぜいいのかを示していこうと舵を切っていると思います。あらゆる樹種をターゲットにして、進めていくべきだと考えています。
浅野: 加藤さんも恵千代さんも、私もですが、これからがチャンスというのは共通した認識だったと思います。これから木の時代が来ると信じて一緒に頑張っていけたらいいなと思います。加藤さん、恵千代さん、そして畦地さんも、本日はありがとうございました。
加藤・鈴木・畦地: ありがとうございました。
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