[eTREE TALK vol.1] Part 3/デザインは誰でもできる。それを実現させるのは、信頼

2020年4月23日

オンライン開催

4/23(木)、eTREE TALK vol.1「木を空間で使うクリエイターの裏話」をオンラインにて開催いたしました。トークセッションの様子を、全三回に分けてお送りいたします。

デザインは誰でもできる。それを実現させるのは、信頼

浅野: 次は、私と吉田さんが出会うきっかけにもなった、nana’s green teaです。吉田さんと名刺交換をして、吉田さんからカミトペンニュースというメールマガジンが届いたとき、この写真が貼ってありました。なんじゃこりゃ、と。こんな設計をする人がいるのか!と思ってよく見たらすぐ近所でしたので、ぜひお話しさせてくださいとお願いして、お話しさせていただいたところ、これ坂本さんがやったらしいよと。それが今回の経緯です。また、ホームページに載っているコンセプトを拝読し、ストーリーテリングが素晴らしいと思いました。

「歪みと泪」

株式会社七葉は「抹茶」という切り口から、「新しい日本のカタチ」を世界に発信している会社である。良質な抹茶を、抹茶ラテなど現代的にアレンジしたメニューで提供している。そして、その店内に求められる空間は「和風」ではなく「現代の茶室」である。それは、オーナーの言葉を借りれば”日本に昔からある茶文化を現代的な解釈で楽しめる店”をつくりたいという思いの表れである。熊本の武将細川忠興は千利休の弟子で、教えに忠実な真っ直ぐな人物であったと言われている。そんな忠興に利休は「真っ直ぐばかりではなく時には歪んでみなさい」という意を込め、歪んだ茶杓「ゆがみ」を遺した。また忠興と正反対で歪んだ事に挑戦し続ける古田織部には「基本を忘れるな」という意を込め、真っ直ぐな茶杓「泪」を遺した。忠興・織部の性格を照らし合わせ、それぞれ教えを遺そうとしたものと考えられる。そこでnana’s green tea 熊本店では忠興にちなみ、歪んだ茶杓を表現した空間を作る。実際には、木本来の形を最大限利用した「歪んだ茶杓」を表現するために杉の銘木をそのまま利用し、それが空間を構成する要素の全てとした。

株式会社KAMITOPENホームページより引用

浅野: ただこういう絵を描いただけではなくて、その地域に根差したストーリーと天然の素材を合わせている。杉の節の状態なども一つ一つ違うので、オーナーさんに納得してもらうのも大変だったのではないかと思います。すみません、私ばかり話しすぎてしまいましたが、設計のきっかけなどありましたらお聞かせください。

吉田: そうですね、nana’s green tea は現代の茶室を作るということで、それぞれの地域の茶人などから発想して作っています。

熊本では細尾川忠興の有名な逸話をもとにしましたが、僕は、このデザインを考えるのは実は学生でも誰でもできると思います。しかし、もし坂本さんのことを知らなければ、これを実現しようとクライアントに提案していませんでした。ハードルが高すぎるので。坂本さんとは信頼関係がありますし、実はコストが、僕の感覚からいうと異常に安いんですよ。信頼がないとできませんでした。クライアントさんをどう説得したかというのも、信頼だと思います。実はこれは、一つ一つの木材が個性を持っている自然のものなので現物を収めてみないと分からない、という説明で通ってしまうくらいの信頼が既にあったので。

「この時は、しびれました。」現場は信頼関係で進んでいった

吉田: 現実には、さらに不燃材という縛りがありました。商業施設ですし家具に使うわけでもないので、不燃材にしなければいけないんです。そこを坂本さんにご相談しました。

浅野: 設計の絵を描いているときから、ここは不燃材だな、と考えていましたか?

吉田: 不燃材ということは分かっていたのですが、正直甘く見ていました。

浅野: この寸法になると、不燃材か否かでかなり変わってきますよね。寸法はどのくらいでしたか?

坂本: 確か、3メートルです。幅は、一番大きいもので500か550ミリくらい。33本でした。忘れもしません。一本一本苦労しましたので。

浅野: どうやって不燃材に加工したんでしょうか。納期もありますよね。

吉田: この時は、しびれました。本当に、どんどん進めていただいて。

坂本: 吉田さんからうちの会社にいただいている信頼が功を奏したのだと思います。なかなか決定にならなかったのですが、最終的に注文が来なくてもいいから製材してみようとか、丸太買ってみようとか、そういうことは信頼がなければまず起きなかったと思います。この図面いただいたときに、どうやってやればいいんだろうと一番初めに思いました。でも、こうした宿題が来ること、つまり自分が思いつかないものを作ってよと投げかけられることは、あまり我々の業界ではおきないことです。いわば挑戦されるわけです。できない、と言えばやらなくていいことにはなりますが、私自身が負けず嫌いであることや、吉田さんとの信頼関係などが、上手に絡み合って進んでいった現場だったな、と振り返ってみて思います。

浅野: 時系列で考えますと、吉田さんが設計を思いついて、難しいだろうけど坂本さんに投げてみる。その段階では正式発注には至っていないけれど、坂本さんのほうで動き出していったということですよね。

吉田: そうですよね。発注する前に買っていただきましたものね。

坂本: そうです。

浅野: 3メートルの製材はないですし、丸太から買ったということですよね。

坂本: はい。もっと言うと、先ほど言われていたコンセプトがあって、なるべくおもしろい形、変わった形を作らなければいけないという縛りがありました。これは矛盾する話でもあります。というのは、杉というのは「直(す)ぐい木」、つまり真っ直ぐという語源から来ているんです。そんな真っ直ぐな杉の木の中でも、根元のほうなどが歪んだ面白い丸太を探しました。しかし、次の市まで待ったらもう買えないかもしれない、一か月待ったらそういった丸太が出なくなるかもしれないという危機感が僕を追い詰めていきまして。今のうちに買っとけ!と思い切って、一気にダダダダダと丸太を押さえて買いました。

浅野: 坂本さんが通常製材するときは、こういった木材は買わないですよね。

坂本: そこが僕の甘いところなのですが、この仕事をやった後にこのような木材を買い始めたんですよ。つまり、やったことがなかっただけだったんです。先代、先々代から受け継いだものをそのままやるだけの会社であればそういうことはしなかったでしょうが、やってみれば、できると分かるので。挑戦する、チャレンジする場所を吉田さんには本当にいろいろと与えていただいているなと思います。

浅野: 言い方を変えれば、そういうことになるんでしょうけれど、

坂本: もう終わったのでね、終われば何とでも言えますから。

吉田: 僕もスタッフから、坂本さんもう買ったらしいですと聞かされたときに腹を決めましたよ。このデザインがもし通らなかったら俺が丸太を買い取るか、とまで。

浅野: そういうやり方もあるんですね、坂本さん。

坂本: 本当に、終わってよかったです。とにかく。

腹をくくった不燃加工

浅野: 不燃材のお話も伺いたいです。

坂本: 僕が不燃材加工でお付き合いしている会社が愛知県にあります。そこの社長さんは、おそらく日本で一番、不燃材に関する情熱と知識をお持ちの方で、御年70歳ほどなのですが、その方に相談した時、そちらの会社では幅が350ミリまでしかできないと言われました。350ミリの不燃材加工ができるだけでもすごいことなのですが、今回は500ミリですので、どうしようかなと。吉田さんに350ミリまでにしませんかとご相談したこともあったのですが、それこそいろいろな方とご相談して、最終的に、この木を半分に割って加工し、あとでくっつけるという方法でやらせていただきました。

浅野: それは、単純に機械に入らないからですか。

坂本: はい。実はこの材には、表も裏も全ての面に、目に見えないほどのとても小さなレーザーを打って、小さい穴をあけています。この穴をあける作業が幅350までしかできなかったんです。おそらく日本でそこでしかやっていないのですが、グリーンレーザーというもので、これをやらなければ不燃材にできませんでした。

浅野: そのレーザーというのは、不燃材加工の技術の一つということでしょうか。

坂本: はい。木材には白い部分と赤い部分があります。白い部分は何か薬液を入れるときに入りやすいのですが、赤い部分は入りにくい構造です。実はシロアリも赤い部分を嫌うのですが、それくらい外から侵入しづらい部分です。ただこれだけ大きな木ですと赤い部分は必ず入ってしまいますので、どうやってこの部分に薬液を入れるか、というのがこの仕事のキーポイントでした。

浅野: お話があった段階で、これは難しいとすぐお思いになったんですね。

坂本: はい。しかし、逆に腹をくくって挑戦しようと思うことができました。不燃材加工の会社の方もこんな加工は初めてだとおっしゃっていましたので、おそらく日本で初めての案件ではないかなと思っています。

浅野: 吉田さんにコメント欄で質問が来ています。これはパーテション扱いにはならなかったんですか?

吉田: これは動かせないものなので、という扱いです。固定していなければ屁理屈をこねられる可能性もありますが、固定していますので。

浅野: 正面突破でいかれたんですね。

吉田: ちなみに、不燃加工しているということもあり、一枚の重さが50㎏ほどもあります。現場でも、大人が二人で持って移動させていました。これを固定させなければ、非常に危険なものになってしまったと思います。

浅野: 不燃材の説明をしないまま進めてしまいましたが、商業用施設の内装は燃えないように加工しなくてはいけません。不燃加工とは、木材に薬を染み込ませる技術です。不燃加工すると、薬が溶け出して白く表出してしまう「白華現象」が起きることもありますが、こちらの写真を見る限り、白華現象もなく、無垢の木材の風合いが残っていますね。

坂本: 僕が見て思ったのは、少し白さが出ているかなと。あれから白華を抑える塗料に出会ったので、今だったらもっときれいにできたと思います。ただ、ほかの現場に比べれば全然出ていない方だと思います。

浅野: また更に進化しているのですね。

浅野: 吉田さんから名言をいただきました。アイデアを出すのは誰でもできるけれども、実現させるのは難しい。ビジネスでも同じように、ビジネスモデルを作るのは簡単だが実現させるのは難しいといいますので、普遍的なことだなと思いました。

坂本さんに相談した中で、唯一これだけ「やめたほうがいい」

浅野: 次は、自由が丘にあるkissa nanahaです。こちらはどういったお店なのでしょうか。

吉田: 着せ替え出来るお店を作りたいな、と思って設計したお店です。例えば服は毎シーズン雰囲気を変えられますし、いろんな業界でどんどん自由になっています。でも、建築やインテリアだけは作ったら最後じゃないですか。何とか変えられないかなと昔から思っていました。それを少し実現させたのがこのお店です。

写真を見ていただくと、内装が鎧張りのようになっています。壁にピンをつけており、板をひっかける構造です。板は表と裏で違う染色をしていて、冬はこげ茶、夏は薄茶、秋と春は二つを組み合わせることで衣替えができます。机の天板もリバーシブルですし、クッションや照明器具も変えられます。

春/秋

吉田: この壁の板を坂本さんに相談させていただきました。この時も、反るのではないかと怖かったです。

浅野: 寸法はどのくらいですか。

坂本: 横200ミリ、縦300ミリ、厚み6ミリくらいです。

浅野: たしかに、板目なので反りそうですね。

吉田: 言ってしまって大丈夫でしょうか。坂本さんに相談した中で唯一これだけは、やめたほうがいいと助言をいただいて、突板に変えたんです。あの坂本さんが無理とおっしゃるならやらないほうがいいんだろうなと思いました。

坂本: 吉田さんからお話をいただいたとき、なるべく無垢でやりたかったのですが、一回試してみようかと思いまして。反らないようウレタンでしっかり固めてサンプルを作ってみました。思いっきり反りました。一度考えうる限りのサンプルを作ってみて、それでだめだったので、さすがにやばいなと。このまま進めて工期に響いてしまう可能性なども考えて、突板で作らせていただきました。中の芯も通常はベニヤなどを使うと安いのですが、MDFという、より反りにくいものを基材に選びました。

浅野: 突板なのですね。写真を見る限り、僕には無垢板のように見えました。

坂本: 突板の厚みを厚くしました。通常は0.2~0.3ミリの板を張り合わせるのですが、こちらは0.5~0.6くらいです。可能な限り厚く継いでもらって作りました。厚く作るということは、同じ木から作れる枚数が減るということでもあります。いろんな木が混ざっているので、いろいろな木目が混ざって、より無垢に見えやすくなっているのかなと思います。

浅野: そういうことですか。突板の加工も坂本さんの工場で扱っているのですか?

坂本: 突板のメーカーさんが知り合いにいます。節のある突板や、いろいろな張り合わせ方をするなど、細かい注文でも融通を聞かせてくれる工場です。面白いものを作りたいという思いに共感してくれる突板屋さんが仲間内にいるということも、一つの強みなのかなと思います。

浅野: 材料は坂本さんが出したということですね。

坂本: はい、間違いなくうちの木です。

浅野: 自由が丘へはいつ頃届いたんですか?

吉田: お弁当みたいに引き渡しの二時間前に現場に届きました。危ない、と思って僕が自分で手でかけました。2か所穴があってひっかけているだけなので、大人二人いれば15分ほどで全てひっくりかえせます。もっと大変かと思っていましたが、意外と楽でした。

浅野: このようなアイデアは、いったいどうやって思いつくんでしょうか。

坂本: それは僕もききたいです。

吉田: うちの会社は少しやり方が変わっていて、一人で考えるのではなくみんなで考えます。三人寄れば、ではないですが。

坂本: 何度かお会いしたことがあります。スタッフさんも非常に創作意欲があり、若い女性の方もいらっしゃいましたが大胆さや度胸がありました。良いスタッフさんが育っているな、という印象を受けました。

浅野: 吉田さんとスタッフさんがとても対等に接していらっしゃいますよね。自由なアイデアが出る秘訣ではないかと思います。

浅野: こちらの天板は坂本さんの木材ですか。

坂本: はい。この天板はリバーシブルなので固定することができず、実は失敗して反ってしまいました。急遽時間をいただいて、突板ではなくフラッシュといいますが、4ミリと4ミリの板でサンドイッチして中は空になるような形で作りました。この時は僕の読みが甘かったです。

吉田: この時は僕も勉強になりました。天板は普通固定しているので反らないように見えますが、実は反るものなんだなと。このカウンターは載せているだけの設計にしてしまったので。納めていただいて一日で反りました。

浅野: 野暮な質問にはなりますが、費用の負担はどうなさいましたか?

坂本: これは僕の判断ミスですので、僕が負担しました。ちょっと反ってはいますが削ればまた使えるので、またどこかで使ってもらおうかなと考えています。

浅野: かっこいい。男気ですね。どこかで使ってあげてください。

吉田: もちろんです。

お二人から一言

浅野: そろそろお時間が来ているのですが、お二人から一言ずついただけますか。

吉田: 聞いていただき、ありがとうございます。僕自身楽しかったです。知らないことも伺えたので。本当はこのまま皆さんとお話しできれば良いのですが、50人ほどいらっしゃるので、コメント欄に質問をお願いします。

坂本: ご清聴ありがとうございました。僕は目の前にある仕事を無我夢中にやってきました。実は工場見学以来、吉田さんと一度もお会いしていません。今日は本当に久しぶりにお顔を拝見してお話ししておりますが、こんなに気持ちが通じていて、この何年間かものづくりをしていたんだなと再認識することができ、本当に素晴らしい時間でした。そのことを皆さんにこうやって聞いていただくこともできました。このような場を作っていただいた浅野さんも本当にありがとうございました。

浅野: こちらこそ、本当にありがとうございました。


ご質問を取り入れながら進行できたり、チャット欄にご感想をお寄せいただき盛り上がったり。はるばる鳥取からご参加くださった方もいらっしゃり、オンラインの良さを生かしたトークイベントとなりました。お二人のお話では木を用いた内装について深くうかがうことができ、大変勉強になりました。現場では、信頼関係が何よりも大切  そう、再確認した一時でもありました。

またこのようなトークイベントを開催いたします。次回もよろしくお願いいたします。

掲載した店舗写真は全て、株式会社KAMITOPEN公式ホームページから引用させていただきました。

■PART1「「本物を使いたい」地域材を求めて」はこちら

■PART2「「行かんといけない。」天板一枚積んで走る」はこちら

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