国産材利用が鍵となる|ウッドマイレージの活用で環境負荷低減を目指す

eTREE編集室

世界が温暖化対策についてさまざまな規制や取り組みを進める中、日本でも2050年には「カーボンニュートラル」実現に向けて動き出しています。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出と吸収・除去を均衡させて実質の排出量をゼロにするという考え方です。

カーボンニュートラルの実現を達成するための一つの方法として、近年、注目が集まっているのが「ウッドマイレージ」です。
今回は、環境負荷低減の指標となるウッドマイレージについて解説します。

ウッドマイレージとは「木材輸送時の環境負荷を表す指標」

「ウッドマイレージ」は、木材を産地から消費地まで輸送した際の環境負荷を数値化したものです。
輸送された木材の量に、輸送された距離をかけて算出します。

ウッドマイレージの考え方は、1994年にイギリスで始まった「フードマイルズ」の考え方を応用したものです。
輸送距離と量を数値として見えるようにすることで、できるだけ消費地に近い場所で調達する意識を高める目的で始まりました。

また、木材輸送に使われた手段によって異なる二酸化炭素の排出量を換算したものを「ウッドマイレージCO2」という指標もあります。

「ウッドマイレージ」と「ウッドマイレージCO2」の2つで、木材輸送に関わる環境負荷を図ります。

参考:ウッドマイルズ関連指標|一般社団法人ウッドマイルズフォーラム

【補足】カーボンニュートラルの実現に大きく影響

日本は、2050年に温室効果ガス排出を実質的にゼロにすることを目標としています。
しかし、国立環境研究所の研究では、現在行っている施策だけでは2050年の目標達成は困難としています。

カーボンニュートラルの達成には、下記3つの施策が不可欠です。

  • 建築物の木造化
  • 国産材の安定的な供給
  • 再造林。

建築業界では近年、建築物の運用中以外の炭素排出量である「エンボディドカーボン」の削減を目指す動きが加速しています。
木材調達時のウッドマイレージCO2の削減を目指すことは、国産材利用の促進、ひいてはカーボンニュートラルの実現に大きく影響するでしょう。

国産材活用がウッドマイレージCO2削減の鍵

ウッドマイレージCO2を削減するには「木材の量、もしくは輸送距離を減らすこと」が有効な手段です。

現在、日本では多くの輸入木材を利用していますが、輸入木材は輸送距離が長いため、ウッドマイレージCO2の値が大きくなります。
同じ量を使用しても輸入材から国産材に切り替えるだけで、ウッドマイレージCO2の削減に効果が期待できるでしょう。

これまで輸入材を利用する理由となっていた供給面とコスト面での課題を、解決していかに国産材に切り替えていくかが、ウッドマイレージCO2削減の鍵になると言えます。

参考:ウッドマイルズ関連指標|一般社団法人ウッドマイルズフォーラム

日本における木材供給の現状

では、現在の日本の木材利用がどのようになっているのかを考えてみましょう。
ここからは、日本の木材自給率や森林資源の量、国産材活用に対する課題について解説します。

日本の木材自給率とウッドマイレージ

日本の木材需給率は令和3年で41.1%となっており、半数以上を世界各国からの輸入に頼っている状況です。
木材を多く輸入している国は日本の他にもアメリカ、中国なども挙げられますが、この中で日本の輸入量は中国に次いで第2位となっています。

また、日本は特に製材品を輸入しているヨーロッパや原木を輸入している南米から非常に距離があります。

輸送距離が長い分、必然的にウッドマイレージの数値も高くなり、木材輸入量第3位のアメリカと比較して4倍もの数値です。

近年、国産材活用促進のためのさまざまな取り組みにより、自給率は増加しつつあります。

しかし、環境負荷を削減する意味でも、日本の豊かな森林資源を有効活用するさらなる取り組みが求められています。

日本における森林資源の量

日本は、国土面積の約2/3を森林が占める世界でも有数の森林国です。
森林面積の中でも4割を占める人工林の半数以上が主伐期を迎えており、木材を生産するための森林資源は充実している状況と言えます。

一方で、主伐期にある人工林からの原木の供給量は、人工林の成長量と比較して4割以下の水準です。
これは利用できる木材が伐採されずに、そのまま成長し続けていることを意味します。

このような状況を踏まえて、今後は主伐と再造林による森林資源の循環利用を促進することが必要となるでしょう。
林業従事者の高齢化や利益が出にくい構造などの理由によって、林業そのものが衰退傾向にあると考えられます。

林野庁では「全国森林計画」によって、木材需要に応じた主伐と再造林による循環を確立するとともに、林業の成長産業化を目指す取り組みを進めています。

国産材活用に対する課題

国産材活用に関しては、次のようなことが課題となっています。

  • 林業従事者の不足
  • コスト高

林業従事者の不足や高齢化により、慢性的な人材不足が続いています。
また、林業が利益の出にくい構造になっていることもあり、林業自体が衰退していることも課題です。

さらに、人手不足により相対的に人件費が高くなることに加え、昨今の運送費高騰により国産材が割高なことも課題と言えるでしょう。

政府は林業の活性化や木材の需要促進に向けたさまざまな取り組みを展開しています。
新しい林業の展開により、人材の確保や育成・機械の導入などが進み、健全な森林経営が行われることが課題の解決策となるでしょう。

ウッドマイレージ削減に向けた取り組み

日本では2050年のカーボンニュートラル実現に向けて「伐って、使って、植えて、育てる」をキーワードに森林資源の循環利用を進めています。

ウッドマイレージCO2削減のためにも、国産材の活用を促進する考えです。

ここからは、ウッドマイレージCO2削減に向けた、日本の3つの取り組みを解説します。

  • ウッドマイレージCO2認証制度|京都府
  • 公共建築物等における木材利用の促進|林野庁
  • 木づかい運動でウッドチェンジ|林野庁・農林水産庁

ウッドマイレージCO2認証制度|京都府

京都府では「ウッドマイレージCO2認証制度(京都府産木材認証制度)」を創設しています。

ウッドマイレージCO2認証制度(京都府産木材認証制度)とは、京都府産木材の利用を促進することでウッドマイレージの削減と森林整備を促進し、地球温暖化防止を進める施策です。

具体的には、京都府産の木材を取り扱う事業体を京都府が認定・認証し、木材の生産から流通加工までを管理し、他方生産の木材とを区別するというものです。

生産地や流通経路、流通方法が分かることによって、ウッドマイレージCO2が明確になります。
数値で視覚化することによって、ウッドマイレージCO2の削減を目指す効果的な制度と言えるでしょう。

この制度に加えて、公共事業や住宅建築において京都府産木材を使用した際に補助金を交付する事業も実施し、需要の促進にも力を入れています。

参考:京都府産木材認証制度|京都府

公共建築物等における木材利用の促進|林野庁

林野庁では2022年5月に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行しました。

目的は、木材利用を促進することによって二酸化炭素の吸収源となる森林の整備を図り、脱炭素社会の実現に貢献することです。

具体的には「公共建築物を建築する際には木造化や内装木質化を率先して実施すること」の義務化です。
民間事業者に対しても、木材利用に関する計画策定や実施状況の公表を求めています。

今後、さらなる取り組みの広がりによって国産材の活用が進み、ウッドマイレージCO2の削減に期待が寄せられています。

参考:脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市(まち)の木造化推進法)|林野庁

木づかい運動でウッドチェンジ|林野庁・農林水産庁

「木づかい運動(ウッドチェンジ)」は、林野庁が2019年から推進している国民運動です。
木材の利用拡大を通じて、森林の適切な管理と林業の成長産業化を図ることを目的としています。
内容としては、公共建築物や住宅での木材利用を促進するとともに、木質バイオマスエネルギーの導入の後押しです。

さらに、企業や消費者に対して木材や木製品への理解と購入を呼びかけている点も特徴的です。
2020東京オリンピック・パラリンピックでも競技会場に国産材がふんだんに利用されました。

木材利用促進月間の制定や、ウッドデザイン賞の設置、木育の取り組みなど、国民全体で木材の需要拡大を目指す取り組みが進められています。

国産材をさまざまな形で活用することで、木材に関する循環利用が進めば、ウッドマイレージCO2の削減に大きな効果が発揮できるでしょう。

参考:木づかい運動でウッド・チェンジ!|林野庁

まとめ

ウッドマイレージは、木材を産地から消費地まで輸送した際の環境負荷を数値化したものです。
また、木材輸送に使われた手段によって異なる二酸化炭素の排出量を換算したものを「ウッドマイレージCO2」と言います。

日本は豊富な森林資源を持っているにもかかわらず、木材として活用する割合が低く、使用する木材の多くを輸入に頼っているのが現状です。
そのため、諸外国と比べて、ウッドマイレージCO2が高くなっています。

2050年カーボンニュートラルの実現が叫ばれる中、国産材に切り替えることがウッドマイレージCO2削減に大きく貢献できるのは明らかです。
今後、さまざまな取り組みを通じて国産材が普及することに、期待が寄せられています。

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