商品紹介
この記事をシェアする
2023.7.31
2020年、新型コロナウイルスによる木材の生産や物流の低下、アメリカでの新築住宅需要の増加によって巻き起こったウッドショック。
木材価格が高騰したうえ、必要な木材が手に入りにくくなったことから、住宅建築にも影響が出始めています。
ニュースなどでも大きく取り上げられたので、ご存じの方も多いことでしょう。
本記事は、ウッドショック後の木材価格における最新動向についての解説です。
「木材価格の最新動向を知りたい」「ウッドショックを経て木材価格はどうなった?」と考えている方に向けて、推移や需給状況を詳しく解説します。
参考:新型コロナがもたらす供給制約 : ウッドショックの影響|経済産業省
目次
現在の木材価格は下落傾向にあるといわれています。
ところが、主な製材品及び針葉樹合板の全国平均価格は、いわゆるウッドショック以前と比較すると、高い水準で推移しているのも事実です。
では、実際にはどのような推移をたどっているのでしょうか。
スギ原木の2023年7月現在の主要市場価格は、全国の原木市場・共販所において、10,000円〜16,000円/㎥となっています。
ウッドショック以前、2020年の同時期には9,000円〜13,000円/㎥だったことから比較すると、高い水準といえます。
また、ヒノキ原木の価格は、全国の原木市場・共販所において、15,000円〜22,500円/㎥です。
同じく2020年の同時期は12,000円〜15,000円だったため、比較すると高い金額で取引されているといえるでしょう。
では、下落傾向と言われるのはなぜでしょうか。
それは2021年3月ごろから始まったウッドショックによって、一時的に木材価格が高騰したため、高騰時と比較すると急落したような状況に見えるのが理由です。
先に挙げたスギの原木価格についても、ウッドショック前と比較すると高い水準ですが、前年の同時期で比較すると、秋田県で54%、それ以外でも全国的に70〜90%程度で推移しています。
また、ヒノキも前年同期比では、全国的に70%〜90%の推移となっています。
では、木材価格高騰の引き金となったウッドショックの原因とはなんだったのでしょうか。
それは主に、以下3つの理由があげられています。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
木材価格の高騰は、ウッドショック以前から続く海外での木材事情が影響しているといわれています。
ヨーロッパや北米では2017年ごろからキクイムシやマツクイムシなどによる被害が多発し、虫害を受けた木材が大量に伐採されています。
森林資源が減ることに加え、健全な木の伐採が後回しになることで生産量が下がる原因ともなっています。
また、世界各地で発生する山火事の被害も深刻です。
カリフォルニア州では2020年に発生した史上最大規模ともいわれる山火事で、東京都の5.8倍の面積が焼失しました。
2020年からはじまった新型コロナウイルスの感染拡大が、ウッドショックの大きな原因です。
感染拡大を食い止めるために、世界各地でロックダウンが敢行されました。
伐採作業を行う人員の移動制限や、製材所の稼働率低下、コンテナ船が港から出港できないなど、伐採から輸送まで、すべてが滞ることになったのです。
その結果、木材流通量が減少し、木材価格が高騰する原因となりました。
木材の流通量が急激に減少する一方で、木材需要が増加したことがもう一つの原因です。
アメリカは2010年から超低金利政策を実施してきました。
2016年から徐々に金利引き上げを図ったものの、2020年、新型コロナウイルスの蔓延に伴って、再度、金利の引き下げを実施しています。
超低金利政策に伴う住宅ローン金利の引き下げと、コロナ禍の巣ごもり需要が重なって、アメリカでは新築住宅の建築ブームが巻き起こりました。
もともと木材の供給が減っていたところに需要が増加したため、価格が高騰する結果となっています。
同じ現象は日本でも起きています。
2020年8月には巣ごもり需要の増加により新築戸建て住宅の売買件数が大きく増加しています。
日本では、住宅の建築に使われる木材の70%以上を輸入木材に頼っており、コロナ禍で海外からの輸入が滞っている中、需要が増えたことで、木材価格が高騰する原因となりました。
ここからは、木材価格相場を決める需給状況について、最新の状況を見ていきましょう。
供給面からは、国産木材と輸入木材の状況、そして、需要面からは住宅用建材と木材チップの状況を解説します。
6月ごろから日本では全国的に梅雨入りをするため、この時期は、原木生産よりも間伐作業や植え付け、下刈りなどを行う生産業者が多くなります。
そういった事情から、2023年7月の原木生産数は減少、間伐材の生産も6月よりも少ない状況です。
また、価格の下落や虫害の影響により、製材できない小径材が木質バイオマス燃料に転換されることが多くなっています。
一方で、首都圏での製品市場の売れ行きは悪く、供給が少ないながらも在庫過多の状況も起きており、木材価格は引き続き、下落する様子を見せています。
参考:7月の木材価格・需給動向|一般財団法人 日本木材総合情報センター
アメリカやカナダを始め、南洋材の生産地域でも乾燥による伐採への影響が出ています。
アメリカやカナダでは大規模な森林火災が発生、鎮火に時間を要することから伐採停止などの措置をとる業者が出る可能性があります。
また、渇水のため水上搬送に支障が出る地域もあり、供給面での不安が広がる可能性が出てきました。
一方で日本では、ウッドショック時に確保した在庫がまだあることや製材品の需要が回復しないことから、仕入れには慎重になっている状況です。
価格には、現在のところ大きな動きは見られません。
参考:7月の木材価格・需給動向|一般財団法人 日本木材総合情報センター
現在、日本の住宅需要は低調です。
2020年8月にコロナ禍の巣ごもり需要で新築戸建て住宅売買指数は大きく上昇しましたが、輸入材の価格上昇と連動して指数が低下、そのままの状況が続いています。
国産の構造材はスギ・ヒノキ共に価格が下がったままの状態が続いていて、販売不振から、さらに価格を下げる製材業者も出るなど、価格はさらに下落傾向にあります。
一方で、アメリカ産の造作材は、スプルースや米ツガなどで入荷が非常に少なく、高い価格を維持している建材も見られます。
木材チップはバイオマス燃料の原料になるなど、引き合いの強い木製品です。
小径材などの原木が、木材チップの工場に搬送されるなど、国内では需要の大きい分野といえます。
一方で、東海地区では大型の製紙工場の定期修理や木材チップを使用したボード会社の火災などの影響で一時的な消費減少が起きています。
現時点では在庫は安定しているとはいえ、長期的な不足感があることから、価格への影響が懸念されます。
ここからは、木材価格の安定に向けた国の取り組みについて紹介します。
木材価格の安定に向けて国が重視しているのは、川上から川下までの情報供給と木材利用促進に向けた環境作りです。
木材の安定供給体制の構築と木材の需要促進の両側面からの取り組みが行われています。
需給情報連絡協議会は、国産材の安定供給体制の構築に向けて、川上から川下までの関係者が需給情報の収集と共有を図ることを目的としています。
林野庁や有識者の他、全国7地区から、木材の生産業者や森林組合の関係者、製材業者などで構成された組織です。
令和5年度に開催された、第1回中央需給情報連絡協議会では、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」の改正についての情報共有が行われました。
他にも、川上・川中・川下の需給動向、さらに海外情勢を踏まえた輸入材の動向や国産材の価格変動についての情報共有が行われています。
参考:国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会開催要領|林野庁
ウッド・チェンジ協議会は、木材を利用しやすい環境づくりに取り組むことを目的に開催されています。
木材利用の促進に向けた課題の特定や解決方策の検討、先進的な取組の発信、情報共有が主な内容で、経済・建築・木材供給関係団体など、川上から川下までの幅広い関係者が参加する官民協議会として立ち上げられました。
これまでに4回の会議が開催され、参加団体・企業・関係省庁などの取り組みや関連情報の共有、意見交換などを実施しています。
会議の中で話し合われた、低層小規模建築物・中規模ビル・高層ビルの木造化や内装での木材利用などについては、林野庁の公式HPで資料が公表されています。
木材価格の安定については、国だけでなく民間でもさまざまな連携を通じて、取り組みが行われています。
川上から川下のグループで連携して安定的な木材需給を目指す取り組みを紹介します。
大分県で木材の安定需給に取り組む「天領木の会」は、川中の製材所がグループ内の木材加工状況をとりまとめ、川下の住宅販売業者が受注情報や設計プランをとりまとめて情報共有を行っています。
グループは、住宅販売業者と製材所が二つの柱となり、それぞれがとりまとめた情報を共有することで、川上から川下までが連携していることが特徴です。
製材所がグループで使用する木材を事前に共同購入してストックすることで安定供給を実現しています。
2012年の結成以来、実績が出ていることから、参加する企業が増えているのも、将来に向けた期待の表れといえるでしょう。
参考:住宅供給における安定的木材需給のための連携のすすめ|国土交通省
ひろしま地域住宅の会では、プレカット業を営む川中の業者が事務局となって、需給情報を収集し、グループ内で共有しています。
事務局では、グループ内で必要とされる木材を樹種別、長さ別に管理、需要に合わせて製材所へ発注することで需給調整を行っています。
また、事務局であるプレカット業者は流通業でもあると同時に構造計算も実施していることも大きな特徴です。
必要木材量の算出や構造計算、省エネ設計などグループ内での需給をトータルでマネジメントすることで、木材の安定的な需給を実現させています。
参考:住宅供給における安定的木材需給のための連携のすすめ|国土交通省
木材価格は下落傾向と言われていますが、現時点ではウッドショック以前の水準と比較して高い価格で取引されています。
ですが、ウッドショックで木材価格が高騰した結果、コロナ禍で盛り上がっていた住宅建築や都市部でも製材品需要などが低迷し、将来的に更なる価格の下落も予想されます。
日本の建築用木材は輸入品に頼っている部分も多く、海外の事情の影響を受けやすい面も特徴です。
木材価格の安定には、安定的な需給が必要不可欠であり、そのためには川上から川下までが連携して安定供給できる体制を作ることが必要といえるでしょう。
おすすめの記事