東北の木材とは|代表的な地域材と木材・林業の現状を解説

eTREE編集室

東北地方といえば、白神山地や奥入瀬渓谷、八幡平や蔵王など、豊富な山や渓谷を持つイメージがあるのではないでしょうか。
実際に、東北地方は森林資源に恵まれた地域です。
豊富な森林資源を抱える一方で、林業が盛んな地域とは言いがたい側面もある東北地方。

今回は「東北地方にはどんな木材があるのか知りたい」「東北の木材がどのように利用されているのか知りたい」という方に向けて、代表的な木材や、東北地方の林業の現状について解説します。

東北の木材事情

まずは、東北地方の木材事情について見てみましょう。

東北地方とは明確な定義はないものの、一般的には青森県、秋田県、岩手県、宮城県、山形県、福島県の6県を総称した地域のことを指します。

2019年に公表された政府の統計によると、東北地方の森林面積は470万haで全国の森林面積の約18%を占めています。

また、東北地方の6県の面積における森林率は約70%となっており、全国平均の67.3%を上回る、豊富な森林資源を持つ地域ともいえます。

県ごとの木材の特色でいえば、秋田県はスギの人工林の割合が非常に高いのが特徴です。
また岩手県のカラマツ、福島県のヒノキは分布範囲の最北地域といわれています。

東北を代表する木材5選

古くから親しまれる東北の木材は、品質の高さや希少性からブランド化されることも多く、人気の木材となっています。
それでは、ここで東北を代表する、次の5つの木材について紹介します。

  • 青森ヒバ
  • 秋田スギ
  • 気仙スギ
  • 遠野カラマツ
  • 南部栗

青森ヒバ|日本三大美林の一つ

青森ヒバは、木曽ヒノキ・秋田スギと並んで日本三大美林の一つと称される木材です。
江戸時代から、厳しく統治されてきたヒバの山林は、当時の面影そのままに美しい姿を残しています。

腐朽や水に対する耐性が高いため、建材としては家の土台や水回りなどでの使用に重宝されてきました。
また、白い見た目の美しさやすがすがしい香りから、内装材としても利用されることが多い木材です。

抗菌・防腐・防虫効果が高い揮発性物質「ヒノキチオール」や「シャメールB」を含んでおり、建材以外に「ヒバ油」とよばれ、精油としても利用されています。

参考:青森ひばの不思議|東北森林管理局

秋田スギ|国産材の希少種

美しい木目で高い人気を誇るのが、秋田県を代表する国産材の秋田スギです。
米代川と雄物川の流域を中心とした森林地帯で生育する天然スギを「秋田スギ」と呼び、強く腐りにくい性質から、古くから神社や仏閣の造作材として利用されてきました。

寒さが厳しく、過酷な環境の中でゆっくりと生育する秋田スギは、年輪の目が細かく、赤みが強い美しい木目を持つのも特徴となっています。
木目の美しさや粘り強い特徴を生かした「曲げわっぱ」や「秋田杉桶樽」などの工芸品も有名です。

気仙スギ|森林の町でブランド化

岩手県気仙郡、下閉伊郡南部地方で生産されるスギは「気仙スギ」という名前でブランド化された木材です。

気仙地方は江戸時代からの伝統が続く「気仙大工」と呼ばれる匠集団のふるさとでもあります。
良材を選ぶ力と共に伝統工法を受け継いだ、林業や建築の技術に定評がある気仙地方でブランド化された気仙スギは、温かな手触りと独特の香りが特徴です。

主に電柱用の木材として利用されてきましたが、近年、柱材や端柄材としても利用されることが多くなっています。

遠野カラマツ|厳しい環境で育つ虹色の木材

岩手県内陸部に位置する遠野地方で生育するのが遠野カラマツです。
岩手県が日本のカラマツ生育の北限といわれるように、遠野地方は冬期の積雪こそ少ないものの、-20度まで気温が下がることもあるほど、厳しい環境にあります。
このような環境で育った遠野カラマツは、木目が細かく、カラマツとしては比較的ヤニや狂いが少ないとされます。

遠野カラマツの一番の特徴は芯材部の美しい紅色で、時間とともにより鮮やかさが増していくのも特徴の一つといえるでしょう。

南部栗|縄文時代から使われる耐久性

栗は、タンニンを多く含むことから防虫・防腐効果が高いとして木材として重宝されてきました。
特に南部栗は岩手山から吹き下ろす冷たい風にはぐくまれ、硬く丈夫で、水や湿気に耐える腐りにくい木材です。

水や湿気に強い特徴から、古くは縄文時代から建物の基礎として利用されていました。
青森県にある縄文遺跡「三内丸山遺跡」からは5500年前の栗材の基礎が発掘されています。

現在では建材として、土台に使われるだけでなく、床、柱、家具などにも使われる木材です。
肌目は粗いものの、年輪がはっきりとした温かみのある感触が特徴で、フローリング材として使用すると南部栗のはっきりとした木目が際立ちます。

東北の木材を使った建築事例

ここからは、東北地方の木材を使用した建築事例をご紹介します。
東北の木材は古くから良材として親しまれ、東北から離れた地域でも建材として利用されています。

青森ヒバ|水に強い特性を利用

青森ヒバは、水に強い特性があることから、橋や治山ダムなどに利用されています。
青森県五所川原市の飯詰山国有林にある坪毛沢は、勾配が急であることに加え水に弱い土質のため、豪雨のときに崩落を繰り返し、地元では「暴れ沢」として恐れられていました。

大正時代に、坪毛沢の崩落と下流への土砂流出を抑止するため、青森ヒバを利用した木製のえん堤が作られ、現在も現役で役割を果たしています。

また、青森県北津軽郡にある「鶴の舞橋」は樹齢150年を超える青森ヒバで作られています。
丸太3,000本、板材3,000枚が使用された鶴の舞橋は全長300mと、木造のアーチ橋としては日本一の長さの橋です。

参考:ヒバを使った建築物|東北森林管理局

秋田スギ|伏見城建築材として利用

秋田スギは古代から豊富な資源として、建築材を始めさまざまな用途に使用されてきました。
有名な建築物としては、戦国時代に建てられた伏見城があげられます。

伏見城築城に使われた秋田スギは、米代川上流の天然林から伐採され、筏で米代川を下って能代まで行き、そこからは日本海を伝って、現在の福井県である敦賀の港まで船で運ばれました。
1593〜1596年にかけて、伏見城の建築用として、557立方メートルもの天然秋田スギ材が秋田から伏見まで運ばれたと記録されています。

参考:天然秋田スギの歴史に学ぶ保護・保存|東北森林管理局

気仙スギ|震災復興に活躍

気仙スギが生育する地域は、岩手県南部の沿岸地域です。
古くから、宮大工の技術を持つ気仙大工が活躍した、林業や製材業が盛んな地域として知られていました。
現在、良質な建材である気仙スギが、東日本大震災からの復興対策に活躍しています。

岩手県気仙郡住田町では、震災直後から、町が建てる木造仮設住宅に気仙スギを使用しています。
あらかじめプレカット加工された木材を現地で組み立てるため、施工期間も短く、プレハブと比較してもコストが同等に抑えられるのが特徴です。
復興を通じて、気仙スギブランドの認知拡大にも期待が寄せられています。

遠野カラマツ|集成加工でカラマツの難点を克服

遠野地区は、岩手県の中でも森林の面積が総面積の80%以上を占める有数の森林・林業地帯で、特にカラマツが多く生育する主産地になっています。

カラマツは美しい紅色に特徴がある一方で、割れや狂い、ヤニが出るなどの特徴もあり、建築材とするには難しい側面もありました。
そこで、集成加工を施すことでカラマツの難点を克服、利用の促進を図っています。

近年、湾曲材に加工されたカラマツが、保育園のデッキ上部の湾曲屋根として利用されたり、遠野市の市営住宅に利用されたりなど、大型建造物への利用の幅が広がっています。

東北地方の林業の今

東北地方は森林率が高いものの、国有林の割合が高く、人工林の割合は低いのが現状です。
豊富な森林資源に恵まれている一方で、産業として林業地域とは言いがたい土地柄でもあるといえるでしょう。
ここでは、東北地方の林業で、今、取り組まれている事について解説します。

陸前高田で行う自伐型林業|地方創生の鍵となるか

東日本大震災をきっかけに、「すでにある資源を生かした雇用の創出」という気運が高まった陸前高田市では、2015年から「自伐型林業」の講演会や講習会を開催してきました。

「自伐型林業」とは小規模で始めやすく、他の仕事との兼業や副業としても実現できる可能性を持った小さな森林経営です。
重機などにコストをかけず、チェーンソーや軽トラックを利用して、少人数で間伐作業を行なえることから、参入障壁が低いというメリットがあります。

新たに参入した林業従事者が地元企業と連携しながら、地方創生を担う鍵となるのかどうか、注目を集めるところでしょう。

住田町が目指す「林業日本一」の町作り

気仙スギの産地、岩手県気仙郡住田町では現在、森林・林業日本一のまちづくりに向けて、「住田型森林(もり)業システム」と呼ばれる持続的な森林経営への取り組みを始めています。

取り組みの目標は、環境と調和しながら循環型社会の実現をはかり、取り組みを通じて住田町を森林・林業の一つのブランドとして確立することです。

主な目標は川上から川下までの林業を振興させることですが、その中でも、新たな取り組みへの土台となる川上の強化に力を入れています。

森林・林業日本一のまちづくりと合わせて、町内経済が活性化し、雇用が創出されることが期待されています。

まとめ

東北地方には国有林が多く存在し、豊富な森林資源に恵まれた地域である一方で、人工林の割合が低く、林業が盛んな地域とまではいえない土地柄でもあります。
とはいえ、寒さの厳しい環境で生育する木材は、古くから良材として東北地方だけでなく、日本各地で利用されてきました。

現在、循環型社会の実現を目指して、林業でも新しい取り組みが採用されていますが、東北地方も例外ではありません。
陸前高田市で始まった「自伐型林業」や、住田町の「住田型森林(もり)業システム」を通して、持続的な森林経営を実現する取り組みが始まっています。

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