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2023.3.3
ウッドチェンジという言葉にあわせて、建築物の木造化・木質化が推進されている中、木材の可能性や活用方法についても議論が増えています。技術が進化していく中、新しい木質材料として開発されたBP材をご存じでしょうか。既存の製材工場で生産でき、安定的に調達できる可能性が高いことから、地域材利用拡大の面からも期待される木質材料です。
今回は、そのBP材に焦点をあてて解説していきます。
目次
BP材とは、製材を積層・圧着した新しい木質材料のことを言います。圧着=Binding、積層=Pilingの頭文字をとってBP材といい、別名「重ね束ね材」とも呼ばれます。製材品に少し手を加えることで、強度やコストパフォーマンス、加工性を高めることができ、RC・S造に匹敵する大空間の実現に向けて可能性を秘めている木質材料なのです。
重ねて束ねて接着するだけなので、既存の工場でも比較的容易に大きな断面材を作ることができるため、構造部材としての普及にも期待が寄せられています。
参考:株式会社・工芸社ハヤタ
BP材は、120×120cmまたは、150×150cmの芯持ち正角材を圧着して製造します。2から5段重ねを基準とし、10mまで製造可能です。現在のところ、認定対象は3mから10mとなっていますが、BP材自体は3m未満でも製造できます。
一般的にこの規格の正角材は住宅の柱などに使われる寸法で、供給の安定したA材を利用して製造されています。ところが、構造用製材としては小断面での利用が多いため、供給過多になっている現状もありました。その正角材をBP材へと加工し大断面の木質材料とすることで、地域材の利用促進という観点からも期待されています。
BP材で使用する正角材は含水率18%以下の条件をクリアしたものとされています。また、ヤング係数は、JAS規格で規定する機械等級区分構造用製材 E70・E90・E110 適合品とされます。すでにBP材は国土交通大臣認定を取得しており、スギBP材は120角と150角、ヒノキBP材は105角、120角がJAS材として使用できます。
JASについて知りたい方は、こちらをご参考ください。
▷JAS材とは?|補助金を含むメリットや活用事例を解説
BP材を開発したのは、熊本県山鹿市にある株式会社・工芸社ハヤタです。昭和27年に製材業として誕生した同社は、木の持つ美しさを最大限に引き出しながら、力強さを兼ね備えた材を作る、というコンセプトの基、BP材を開発しました。
製材品を加工して製造できる手軽さと、集成材やRC造にもせまる強度を持った新しい建材として普及を目指しています。
参考:株式会社・工芸社ハヤタ
日本BP協会は、BP材普及のために創設された一般社団法人です。BP材の普及には、建物の規模や用途に応じた、BP材の適切な生産や供給が必要となりますが、そのためには川上から川下までの連携を通じた、林業全体の活性化が欠かせません。
日本BP協会の役割は、関係事業体同士の連携を促進するための、積極的な取り組みをおこなうこととなっています。
参考:日本BP協会
BP材の特徴を生かした新しい構法がTKS構法です。先に紹介した株式会社・工芸社ハヤタがBP材開発と合わせて作り出した構法で、木造で大空間を可能にする構法として、今注目を集めています。
TKS構法とは部材に穴を開け、その穴に鋼棒を差し込み、専用のエポキシ樹脂系接着剤で固定する「鉄筋拘束接合(GIR形式)」をすることで大断面の構造材として使用する構法です。BP材の利用をベースに開発された構法ではありますが、それ自体は一般的な製材や集成材での使用も可能です。
TKS構法の特徴としては、主に以下の3点があげられます。
TKS構法の大きな特徴は、簡単で手軽な施工方法である点です。既存の製材用設備の他には、樹脂注入用の道具を準備するだけで製造できるため、多くの製材工場で生産が可能になると考えられます。安定した供給への期待は、普及拡大へとつながるでしょう。
TKS構法では鋼棒が材の中に隠れるため、意匠性にすぐれているというのも特徴のひとつです。燃えしろ設計を適用し、耐火基準をクリアすればBP材をそのまま仕上げに利用できるようになります。また、金属が表に出ないことで、結露による金属の腐食や火災時の接合部の耐力低下なども回避できるという点もメリットとなるでしょう。
また、建築以外への応用も可能です。実例として福岡県の博多祇園山笠では、飾り山の柱の脚部や柱の接合部分にTKS構法が用いられています。
参考:株式会社・工芸社ハヤタ
それでは実際にBP材が使われている事例についてご紹介します。BP材は高性能の耐力壁などと併用することによって、大空間の確保が可能となります。そのため、公共施設や教育施設、老人ホームなどでの活用が増えています。
茨城県大子町庁舎は「森の建築」として話題になった建物です。庁舎内部は、柱がチューリップの花のような形状で林立し、圧巻の景観になっています。
大子町は八溝山を抱える林業の町です。その町にふさわしい純木造の庁舎を作るためには、設計段階から県の林業組合と木材調達のための調整を続けてきました。その結果、使用する木材の約6割が大子町産材という結果となっています。さまざまな規格の材を、適材適所に利用する工夫がされていて、BP材は梁として240cm×360cmのスギBP材が使用されています。
木材SCMや森林所有者との連携、木造建築普及のためのモデルケースとして注目度の高い事例です。
参考:日経クロステック
熊本県玉名郡にある和水町立三加和小・中学校もBP材を構造と現しに使用した建築の実例です。屋内運動場や教室を無柱で構成した大空間を実現しています。
BP材は校舎等では耐力壁として導入、屋内運動場では屋根勾配に合わせて精密に組み合わされた架構として使用されました。BP材を開発した株式会社・工芸社ハヤタが、地元のアヤスギを用いたBP材を製作し採用されています。地元の木を使い、地域の工場と地域の大工さんが作り上げた建築物として、地域材の活用や木材SCMの構築に対して、ヒントとなる実例なのではないでしょうか。
参考:SEINWeb
福岡市に建設された東青葉保育園は、構造材、内装材、下地材にすべて九州産材を用いた、地域材利用のモデルケースとなる建築物です。BP材の特徴である、大断面で金物を露出させないTKS構法を採用したことにより、外部も内装も含めて、木の温かみを感じられる建物となっています。また、福岡市で初めて燃えしろ設計を適用した、準耐火建築物となっていることも特徴です。
参考:日本BP協会
株式会社・工芸社ハヤタによって開発されたBP材は、JAS規格にも認定された強度の高い、信頼の置ける新しい木質材料と言えるでしょう。その可能性は、建材としてだけでなく、地域材の利用拡大の面からも期待が寄せられています。
BP材を使ったTKS構法で建設することは、ウッドチェンジで掲げられた建築物の木造化・木質化の観点からも効果的な方法と言えます。耐火基準を満たすことで現しとしても利用できれば、多くの人の目に触れやすくなり、普及拡大への理解も進んでいくのではないでしょうか。
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