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2022.12.16
建築物の見た目に大きく影響する外壁材の選択はとても大切です。せっかくなら美しく、かつ長持ちする外壁材を取り入れ、長く快適に住まいたいと考える人も多いでしょう。
そんな外壁材の中には、長く日本の風土に根付いた自然素材の外壁材があります。今回は、自然素材を用いた伝統的な外壁材のひとつ「焼杉」をご紹介します。
これを読めば自然素材である外壁材、焼杉の特徴を理解でき、より良い外壁材選択の参考になりますので、ぜひ最後までお読み下さい。
目次
一般的に外壁工事は大きく二種類に分けられ、工法や素材によって意匠性やメンテナンス性、施工性やコストなどが異なってきます。
一つ目の「乾式工法」は、主に工場で生産されたボードや部材などを、現場で釘やネジ、ボルト、接着剤などで取り付けていく工法です。このボード状のものをサイディングといい、窯業系サイディングや金属系サイディングが代表的です。実は焼杉も、部材を現場で組み上げるという意味では、この乾式工法に分類されます。
二つ目は「湿式工法」です。漆喰やモルタル、コンクリートなどを現場で生成し、左官仕事で仕上げます。部材を組み上げる乾式工法と異なり、シームレスな仕上がり面が得られます。
窯業系サイディングは、乾式工法で施工される外壁材で、セメントと繊維質を練り上げた原料を板状に成型、硬化させた外壁材です。製造過程において窯のなかで高熱処理されるため、窯業系と呼ばれます。窯業系サイディングは以下のようなメリットがあり、現在、住まいに使われる外壁材で最もポピュラーなものと言えるでしょう。
ただし、ボードとボードの隙間を埋めるコーキング材の劣化が避けられないので、メンテナンス頻度はやや高めになります。
金属系サイディングも乾式工法で施工されます。鋼板やアルミ、ステンレスなどの金属板の裏面にポリウレタンなどの発泡樹脂を裏打ちし、断熱性や防音性などを高めた外壁材で、金属鋼板をアルミニウム・亜鉛・シリコンでめっきしたガルバリウム鋼板が代表的です。
金属系の外壁は物理的な傷や塗装のはがれによる錆びに注意する必要がありますが、それに気をつければたとえばガルバリウム鋼板の耐用年数は30年程度と言われ、窯業系サイディングに比べメンテナンス頻度が低くなる特徴があります。
塗り壁の外壁は、湿式工法となり現場で生成したモルタルや漆喰などを左官工事で仕上げるため、手作業ならではの味わいや表情が特徴です。特に消石灰を主原料にした漆喰は、不燃材料でありながら古くからお城の外壁や蔵の外壁に使われてきた歴史があり、昔の人が大切なものを蔵に保管したように、自然素材ながら高い耐水性と耐火性があって、外壁に適した材料です。
一方で、漆喰そのものの耐用年数は高いですが、汚れなどの日頃のこまめなメンテナンスは必要になります。
最後に紹介するのが板張りです。この板張りも、部材を現場で組み上げていくという意味では「木材サイディング」としてサイディングの仲間に分類されることもあります。木材特有の木目の美しさとあたたかみが最大の特徴といえ、断熱性にも優れた素材です。
一方で木材の大敵カビや腐朽菌から守る方法として、木材塗装や薬剤含浸などの処理に加え、今回ご紹介する焼杉のように木材そのものの化学的特性を変化させる方法があります。
焼杉は自然素材の特徴を活かしつつ、木材そのものの化学的特性を変化させた素材であることをざっくりとご紹介しました。この章では、その焼杉の歴史や作り方などを、詳しく解説していきます。
もともと、杉は比較的手に入れやすかったこと、心材となる赤身の部分は耐水性や耐候性、耐久性が高かったことから、古くから住まいの外壁材として用いられて来ました。そのなかでも特に西日本に多く分布しているようです。
城崎温泉で有名な兵庫県豊岡市や、アートのまち香川県直島町の街並みなどにおいて、伝統的な焼杉の外壁をみることができます。
焼杉は、その名の通り杉板を焼き焦がし表面を炭化させたものを言いますが、その方法は大きく二通りあります。すなわち、バーナーで工業生産的に焼杉を製造する方法と、伝統的な手焼きにより製造する方法です。
手焼きは杉板を三角形にして煙突効果を起こし、その内側を焼くことで仕上げていく方法です。バーナーによる焼杉の製造方法と比べて、人手も手間もかかりますが、炭化層が厚く固くなる為、より炭化層がはがれにくいと言われています。
焼杉は、先に述べたように木材を焼き焦がすことにより炭化層を形成させることが最大の特徴です。
この「炭化」というのは、物質を炭素分に富んだ状態にすることを言います。通常、木を燃やすと中に含まれる炭素は空気中の酸素と結合して二酸化炭素となり空気中に放出され、燃えかすは灰となって残らないのですが、この木を低酸素あるいは無酸酸素状態で燃やすことにより、木材に含まれる炭素が空気中に放出されず固体として残り、木炭となるわけです。この炭素は基本元素のため、それ以上に分解や腐敗が起こらず、長持ちするようになるのです。
BBQなどに使う炭を、長期間屋外に放置していてもほとんど性質が変化しないのは、このためです。
この炭化を人為的に起こし加工することによって、木材の寿命を高めようというのが、焼杉にみられる先人の知恵です。
これまで述べてきたように、外壁材としての焼杉には自然素材ならではの良さと、焼き焦がしたことによって表面の性質変化が発生しにくいなどといった特徴を有しています。ここでは、具体的に焼杉を外壁材に取り入れたときに得られるメリットを大きく4つに分けて紹介していきます。
外壁材としての焼杉がもつメリットには、なんと言ってもその見た目、高い意匠性にあります。黒くシックな色味、炭独特の光沢や陰影、天然の木材がもつ素材そのものの風合いやあたたかみは、なかなか工業系の製品には生み出せない良さがあります。
古くから日本の家屋に用いられてきたこともあり、日本の街並みにも自然となじみ、長く飽きが来ないたたずまいを演出してくれることでしょう。
二つ目は、焼杉がもつ耐火性です。「炭」というと燃えやすいイメージがありますが、先にも述べたようにこの真っ黒の部分は元素としての炭なのでもうそれ以上燃える余地がありません。そのため、万が一の火災でも火が燃え広がりにくいという特徴があります。
たとえば窯業系サイディングの場合、コーキングの劣化は避けられず、10年程度に一回はメンテナンスをする必要があります。そのため、窯業系サイディングの場合は、最初の費用が安く抑えられたとしても、長く住むことによってメンテナンス費がかさんでしまうというデメリットがあります。
一方、焼杉の場合は素材そのものはほとんど痛まないためメンテナンス費用が抑えられるのと、仮に痛んでしまってもその部分の部材だけ交換すればよいので、長い目で見たときのコストパフォーマンスは安くなるというメリットがあります。
焼杉は自然素材であるので、外壁材としての製品になる過程での環境負荷は、ほかの窯業系サイディングや金属系サイディングに比べて低くなります。住まいは長く、次世代にも残していけるものなので、住まいづくりにおいて環境負荷が低い素材を選ぶことは大切なことでしょう。
また、日本は国土の約7割が森林に覆われた森林国です。日本の木を使うことで林業の活性化に貢献でき、地域の産業を守ることにもつながります。これは他の外壁素材にはない大きなメリットといえます。
ここまで、外壁材としての焼杉のメリットを紹介していきましたが、デメリットもいくつかあります。住まいの素材として焼杉を選ぶときには、これらのデメリットもよく理解して選択していく必要があるでしょう。
さきほど、素材としての焼杉は耐火性能があると紹介しました。しかしながら、現在の建築基準法上では、木材を外壁に用いるときには様々な制限があるため、たとえば市街地の住宅密集地など防火に特に配慮しないといけないような地域では、単純な板張りの外壁とすることが出来ず、壁の構造を工夫して焼杉の下地を防火性能のある構造にしないといけません。
一部対応した焼杉も存在しますが、このあたりはDIYではかなり難しいレベルになりますので、気になる方は専門家に相談する方がいいでしょう。
当然のことですが焼杉の表面は「炭」なので、触ると黒く汚れます。そのため寄りかかったり、洗濯物を干す場所だったり、小さなお子様が手で触ったり通路が狭い箇所への焼杉の施工は、気をつけましょう。
特に、ペットなどを飼われていてがりがりとこすったりするような場合は、表面の炭化した部分をそぎ落としてしまうことにもなりますので、注意が必要でしょう。このような場合は、焼杉と他の素材と組み合わせて施工するか、あるいは汚れがつきにくい焼杉の使用がおすすめです。
メンテナンス性のところでも触れましたが、焼杉は木材なので日常的な反りや割れは起こりうるでしょう。また、割れたところから中の木材部分が見えてしまったり、反りが重なって水がたまったりしてしまう場合は注意が必要です。
しかし、気になるところは部分的な張替えで補修することができますし、反りについては施工時に板を横張りではなく縦張りにすることで、水はけをよくすることができるので、解決は容易です。
いかがでしたでしょうか。外壁材としての焼杉について、そのメリットデメリットなどを紹介してきました。これまで紹介してきたように、焼杉は自然素材ならではのあたたかみや風合いを持ちながら、古くから外壁材として使用されてきました。
一方で自然素材ゆえの反りや割れ、汚れるなどのデメリットは存在します。
外壁材として焼杉を選択するときは、そのようなデメリットも許容しつつ、自然素材ならではの良さを味わいたい方におすすめでしょう。
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