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2024.5.27
森林の保護や管理を考えるときに、その森林の成り立ちや役割を知ることは重要です。
目的によって、どの程度まで人の手を加えられるのかが異なるからです。
今回は、人工林・天然林・原生林の定義や役割についても解説します。
一緒に、日本の森林の現状や課題について考えてみませんか。
目次
森林を分類すると「人工林」「天然林」「原生林」などが代表的な形態となります。
そしてその分類は「どの程度、人の手が入っているか」によって、下記の図のようになります。
人工林>天然林>原生林
成り立ちがどのような形であっても、森林にはそれぞれ特徴があります。
そのため、それぞれに適した方法で管理・保護・維持していくことが重要です。
人工林の定義は、下記になります。
一般的には「植林によって作られ、その後林業従事者によって管理されているもの」を人工林と呼びます。
しかし、定義に準ずると管理を放棄されていても人工林です。
参考:用語解説|林野庁
人工林の主な役割は次の2点です。
林野庁が推進する全国森林計画では、国産木材の安定的な供給のために、次のような対策を設定しています。
これらの取り組みを行うことで、現在は40%未満の木材自給率を2030年に約48%まで上げることを目指しています。
人工林は、下記のようなメリットがあります。
一方で、人工林のデメリットは下記2点です。
人工林は木材生産という目的を達成するために、単一の樹種を集中的に育成することも多くなります。
そのため、スギ花粉によって引き起こされる「花粉症」は大量の杉を植樹した人工林が原因の1つだと考えられています。
また、もともとその土地で生育していない樹種を育成することで、管理放棄された場合に土地自体が荒廃してしまうこともデメリットです。
天然林の定義は下記です。
厳密には人の手が入らずに、天然更新している森林のことを指します。
しかし、伐採の影響を受けた天然生林も含めて天然林と呼ぶことがあります。
参考:用語解説|林野庁
天然林は、自然による推移に任せながら、安定した状態に移行する過程の森林です。
現在、日本全国の森林面積のうち約60%が天然林となっています。
森林が持つ多面的な機能の多くは、天然林が担っていると言っても良いでしょう。
森林が持つ多面的機能の代表的なものは、次のようになります。
その他にも、文化的価値のある経験や歴史的風致を構成したり、文化財への用材を提供したりするなどの文化的機能も森林が持つ多面的機能の一つです。
天然林を維持することは、直接・間接的に人々の暮らしを維持することにつながると言えるでしょう。
なお基本的に天然林は、自然の推移に任せて更新するため手入れは不要です。
ただし、動物からの被害や雨風などによる荒廃が懸念される天然林に関しては、人の手による間伐や下刈りなどが行われることもあります。
天然林があることで、生態系に多様性が生まれることは大きなメリットの一つと言えるでしょう。
また、最初に人の手で植林された天然林の場合、植林された針葉樹と天然更新の中で生育した広葉樹が混じり合い、多種多様な植生が実現する可能性もあります。
一方で、環境変化の影響を受けやすいため、維持が難しい側面があります。
自然災害や火災などで一度失われた状態からの発達段階にある天然林は、土地本来の生態系が戻っていないと考えられます。
原生林の定義は下記です。
天然林の遷移が進み最終段階に達した森林や、過去に人の手が入っていたもののその痕跡が見えなくなっている森林についても原生林と呼ばれます。
土地本来の生態系や植生が維持されている、安定した状態の森林です。
参考:用語解説|林野庁
原生林は、土地本来の植生や生態系がそのまま維持されているため、生態学的に価値の高い森林です。
日本にある原生林は、屋久島や白神山地、知床半島や小笠原など、ほとんどが世界自然遺産に指定されている地域になります。
他の地域には見られない貴重な動植物の宝庫でもあり、歴史的な価値が高い存在です。
原生林は、植物や動物にとって、本来の姿に最も近い最適な環境と言えます。
植生や景観、生態系の復元を目指すのであれば、原生林を目標とするのが良いと言われており、保護の重要性が叫ばれています。
令和4年度の森林・林業白書によると、日本全体の森林面積はほぼ横ばいで推移しており、国土面積の約2/3が森林となっています。
そのうち、約40%に相当する面積が人工林、約50%が天然林、残り10%のうち原生林が占める割合は4%程度です。
森林はどのような分類であっても、さまざまな働きを通じて生活の安定や経済の健全化に寄与する、多面的機能を持っています。
国土の多くを占める森林を適切に管理・維持・保護するための取り組みが求められています。
近年、日本の森林蓄積は人工林を中心に増加しています。
森林蓄積とは、木が生長した量を体積で表したものです。
増加が意味するのは「収穫期を迎えた人工林が伐採されずに生長し続けている」ということです。
戦後に植林された人工林の半数以上が収穫期を迎える中、成長量のうち約60%以上が利用されることなく放置されています。
そのため、政府は国産材の普及に向け、木材利用促進に関する法律の制定や「ウッドチェンジ」という国民に木材の利用を勧める運動などで、需要促進の対策をしてきました。
結果、一時は20%以下まで落ちこんだ木材自給率が、令和3年の段階で41.1%まで回復しています。
また、供給側でもさまざまな取り組みが行われています。
例えば、人工林を伐採した後に手入れの必要がない広葉樹を植林し、天然林に戻す取り組みを行う企業もあります。
需要と供給のマッチングをしながら、人の手が入った森林の管理・維持をどのように行っていくのかが今後の課題となっていくでしょう。
森林の形態を表す「人工林」「天然林」「原生林」は、人の手がどこまで入っているかという点が大きな違いです。
森林はどの形態であっても、それぞれの役割に加えて、共通の多面的機能も持っています。
そのため、どのような形態であっても、それぞれに適した方法で管理・維持・保護に努めていくことが重要です。
近年、林業従事者の高齢化や利益が出にくい構造的な問題によって、人工林の管理不足や放棄が相次いでいます。
また、木材需要の半分以上を海外からの輸入材に頼る構造となっています。
林業が抱える課題の解決を図るのと同時に、管理が行き届かない人工林を天然林に戻すなど、需給のバランスを考えた森林のあり方を模索する必要があるでしょう。
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