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2024.5.17
現在、世界中で地球温暖化や極端な気象現象の発生など「気候危機」が注目されています。
そんな中日本では、気候危機を回避するため、2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを目指す取り組みが行われています。
具体的に建設業界では、建物の運用以外で排出されるCO2を表す「エンボディドカーボン」の削減が課題です。
建築物におけるエンボディドカーボン削減の鍵は木材の活用、つまり木造建築にあります。
今回はその理由を始め、エンボディドカーボンの算定方法や算定に必要な要素も解説します。
目次
エンボディドカーボンとは「建築物の輸送や建設、修繕、廃棄・リサイクルなど、運用以外で排出されるCO2のこと」です。
建設業界のCO2排出量は、世界のCO2排出量の中で約40%を占めているといわれています。
これまでも建物で暮らしている際のCO2排出量の削減を目的としていくつもの施策が試みられ、現在は削減が進んでいる最中です。
しかし、暮らしている際のCO2削減にも限界があります。
今後、さらに脱炭素を実現するためには、エンボディドカーボンの削減が課題です。
建材の選択やプロセスの最適化、改修や解体・リサイクルなど、運用以外のCO2排出量削減に向けた取り組みが求められていくことでしょう。
エンボディドカーボンの削減に貢献できる有力な建材の一つが木材です。
木材は、樹木が本来持っている炭素固定機能によって、木の内部にある炭素を長期間にわたって固定できます。
そのため、他の建材を使用するよりも、ライフサイクル全体におけるCO2排出量を抑える効果が期待できるのです。
また、建築する地域の木材を活用することで建材の輸送に伴うCO2排出量を抑えられる点でも、他の建材より効果を発揮できるでしょう。
木造建築の普及を推進することは、エンボディドカーボンの削減に大きく寄与する可能性を秘めています。
参考:脱炭素ポータル|環境省
エンボディドカーボンの算定には、まず建築物の全ライフサイクルを通じての環境負荷を算定しなければなりません。
建築物のライフサイクルには主に、下記のステージがあります。
エンボディドカーボンの削減には、各ステージでの脱炭素の方法を考慮して、適正な方法を検討することが必要です。
建築物の設計や資材・建材の選び方、輸送方法などの違いが、エンボディドカーボンの削減幅に大きく影響します。
エンボディドカーボン算定に伴って、深くかかわってくる要素には次のようなものがあります。
ここからは、それぞれの要素について説明します。
LCA (ライフサイクルアセスメント)とは、建築物の計画から解体・処分に至る全ライフサイクルにわたって、環境負荷を評価する手法です。
ISO(国際標準化機構)によって、環境マネジメントの国際規格の中にLCAに関するISO規格が作成されています。
建材の製造から運搬、建設、運用、解体に至るまでの各段階におけるエネルギー消費や CO2排出量を定量的に把握できるのが特徴です。
LCAの活用により、建築物の環境性能を客観的に評価し、設計段階から環境配慮を組み込むことが可能となります。
オペレーショナルカーボンとは、建築物の運用段階で消費されるエネルギーに伴うCO2排出量を指します。
建築物の用途や設備、運用方法によって大きく変動するため、省エネ・創エネ性能の向上への取り組みが重要です。
現在、日本ではネット・ゼロ・カーボンを実現するビルや住宅への転換が進み、オペレーショナルカーボンの削減に大きく貢献しています。
アップフロントカーボンとは、建築物の建設段階で発生する CO2排出量を指します。
エンボディドカーボンの中でも、特に建材の製造や運搬、建設工事など、運用前のステージでの環境負荷を指す言葉です。
建築物のライフサイクル全体を通じた環境負荷を最小限に抑えるために、アップフロントカーボンの削減が重要な課題です。
そのため、アップフロントカーボン削減を建築規制と結びつける動きも出始めています。
ホールライフカーボンとは、建築物の計画から解体・処分に至る全ライフサイクルにわたる CO2排出量の総量を指します。
オペレーショナルカーボンとエンボディドカーボンを合わせたものが、ホールライフカーボンです。
LCAでは、ホールライフカーボンとその他の環境負荷を合わせて評価します。
地球温暖化の原因として温室効果ガス排出量が叫ばれる中、世界各国でさまざまな政策や規制が実施されています。
ここからは、下記のようなエンボディドカーボンに関する日本での取り組みについて解説します。
環境省では、ライフサイクル全体を通じてCO2の排出量をマイナスにできる住宅や建築物の開発と普及を目指した取り組みを行っています。
このような住宅や建築物を「LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅」と言います。
建築物が長寿命化していることに伴って、改修、解体、再利用にかかわるCO2の排出量にも留意する必要が出ているためです。
LCCM住宅を実現するための基本的な考え方は次の通りです。
取り組みのポイントは、ライフスタイルやワークスタイルの変革まで視野に入れることで「全ライフサイクルでのCO2排出量をネットマイナスにする」ことと言えるでしょう。
参考:LCCM住宅の展開~LCCM住宅の基本的考え方~|環境省
195の国と地域が参加する気象変動に関する政府間組織「IPCC」によると、温暖化を抑えるためには、2023年からの10年間の施策が鍵になるとしています。
この予測を受けて国土交通省ではLCCO2を実質的にゼロとする「ゼロカーボンビル」の建設を進めることによって脱炭素を加速させています。
「LCCO2」とは、製品の製造、輸送、販売、使用、廃棄までのすべての段階での二酸化炭素発生量を評価する手法のことです。
ゼロカーボンビルの普及促進を目指した取り組みの、主なポイントは次の通りです。
2050年ネットゼロに向けて、資材や建築物の表示・格付制度の制定も視野に入れた取り組みが進められています。
現在、世界各国でエンボディドカーボン削減を目指したさまざまな政策や規制強化が行われています。
ヨーロッパでは、次のような規制強化が決定しています。
米国では、CLT(直交集成板)を採用した多層建築物で、エンボディドカーボンの大幅な削減を実現させています。
また、Microsoftの本社再開発では、建築資材の見直しを図ることでエンボディドカーボンを30%削減することに成功しました。
2050年までに全ての建築物でCO2排出量をネットゼロにすることが、建築物の脱炭素化に向けた国際社会の目標です。
エンボディドカーボン削減に向けて必要なことは、ライフサイクルを通じた環境負荷を正確に算定することと言えるでしょう。
ここからは、普及が進む下記2つの算定ツールを紹介します。
住友林業では「One Click LCA」と呼ばれる、LCA算定作業を省力化するツールを開発しています。
One Click LCAは、ISO規格で定められた算定手法とデータベースに準拠しています。
木材・建材メーカーが取得した環境認証ラベルEPD(製品ごとの環境負荷データ)をもとに、全ライフサイクルにおけるCO2排出量の算定に活用できる点が特徴です。
さらに、環境認証ラベルEPDの取得もサポートしており、アップフロントカーボン削減への大きな推進力となる効果が期待できます。
参考:なぜ、エンボディドカーボン(建てるときのCO2)算定が重要?|住友林業
大成建設では「T-CARBON BIMシミュレーター」と呼ばれる、建築物に使用する建材や設備などの製造・調達・施工段階でのCO2排出量を算定できるシステムを開発しています。
設計段階におけるアップフロントカーボンを容易に把握できる点が特徴です。
また、建材変更によるCO2排出量を設計にも反映できる機能があり、費用対効果を定量的に把握できます。
今後さらに、建設費の自動積算と連携し、建設費とCO2排出量を比較しながら設計できるよう改良される予定です。
参考:BIMを用いた建築物新築時CO2排出量予測システム「T-CARBON BIMシミュレーター」を開発|大成建設
エンボディドカーボンは、建築物の運用中以外のCO2排出量を指す言葉です。
カーボンニュートラル実現のためには、エンボディドカーボン削減が重要な課題であるといわれています。
建物のライフサイクルにおける脱炭素に貢献できる対策の一つが、木造建築の普及です。
木材は、CO2貯留効果に加えて、他の資材と比較して建築工程で排出されるCO2の量が少ないとされまています。
地域で生産される木材を活用すれば、輸送中のCO2排出も削減できるでしょう。
日本でも政府がさまざまな補助や制度面で、木造建築の普及を促進しています。
国産木材、地域材を活用した木造建築が普及されることで、エンボディドカーボン削減、ひいてはカーボンニュートラル実現の鍵となってくるでしょう。
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