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記事公開:2023.1.25

カーボンニュートラルとは|日本企業の対策や森林の役割など解説

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地球環境保全活動の一環として「カーボンニュートラル」という言葉が頻繁に使われるのはご存知の方も多いことでしょう。地球温暖化に効果的と言われるカーボンニュートラルの実現には、森林資源や林業のあり方が密接に関わっています。この記事では、カーボンニュートラルの実現に向けて森林や林業が果たすべき役割や、脱炭素を目指す現在の状況、取り組みの実例などを解説します。

カーボンニュートラルとは何か?

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素など地球温暖化に影響を与えるとされる温室効果ガスの、排出と吸収を相殺して実質ゼロにする対策を意味しています。温室効果ガスは、経済活動や日常生活のあらゆる面で排出されるため、できるだけ排出量を削減すると共に、森林や木材の持つ吸収量を増やす努力が欠かせません。

2015年パリ協定

地球規模での温暖化対策のために2015年にパリ協定が採択されました。主な内容を要約すると以下のような点になります。

  • 世界的な平均気温上昇を、工業化以前に比べて2℃以上低く、出来るだけ1.5℃に抑えること
  • 21世紀後半までにカーボンニュートラルを達成すること

この実現に向けて、現在120以上の国や地域で「2050年カーボンニュートラル達成」という目標を掲げています。

参考:環境省|脱炭素ポータル

温暖化の現状

2020年時点の世界の平均気温は、工業化以前と比較して、すでに1.1℃上昇していると言われています。温暖化による気候変動で豪雨や猛暑のリスクが高まり、農林水産業、水資源、自然生態系、災害、産業や経済活動などあらゆる方面への影響が懸念されています。この状況が続けばさらに平均気温は上昇し、生存基盤を揺るがす「気候危機」につながるとも言われているのです。

参考:環境省|脱炭素ポータル

カーボンニュートラル実現に向けた日本の現在

パリ協定の採択を受けて、各国でカーボンニュートラルへの対策が始まっています。日本では2050年にカーボンニュートラルの実現、また2030年度に温室効果ガスを46%削減することを目指しています。現在、年間12億トンを超える温室効果ガスを排出していると言われる日本での取り組みはどのようなものなのでしょうか。

脱炭素ドミノ

日本では2025年までに100カ所の脱炭素先行地域を作ったうえで、その対策を全国に拡げていく「脱炭素ドミノ」戦略に取り組んでいます。現在の主な取り組み内容には以下のようなものがあります。

  • 住宅・建築物の省エネ導入、蓄電池等として活用可能なEV/PHEV/FCV活用
  • 地球環境負荷の少ない再生可能エネルギー熱や未利用熱、カーボンニュートラル燃料の利用
  • 地域特性に応じたデジタル技術も活用した脱炭素化の取組
  • 地域の自然資源等を生かした吸収源対策等

参考:環境省|脱炭素ポータル

「改正地球温暖化対策推進法」成立

政府は令和3年5月に地球温暖化対策推進法の一部改正法を成立させました。これは、2050年のカーボンニュートラルの実現を国の法律として明記したものです。これにより各地域で取り組む再エネ活用事業に関しては行政上の手続きが簡素化されました。

また、企業が温室効果ガス排出量情報のデータを開示することが原則化されたことで、情報の活用が拡大し、企業の取り組みがさらに加速することが期待されています。

参考:環境省|【概要】地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案

カーボンニュートラル実現に向けて森林・林業にできること

カーボンニュートラルの実現に向けては排出量の削減と共に、吸収量の強化が重要になります。吸収量の強化は、森林経営や林業の分野で貢献できる内容として最も大きいものとなるでしょう。カーボンニュートラルという視点から見た森林のあり方とはどのようなものなのでしょうか。

森林の果たすべき役割

植物には大気中の二酸化炭素を吸収して固定するという働きがあり、特に樹木は幹や枝に大量の炭素を蓄えられています。製材され木材となっても貯蔵されるため、木造の住宅や家具などは炭素貯蔵効果が高い特性があります。また、木材は製造・加工に必要なエネルギーが少ないため、二酸化炭素の排出を抑えることができます。

参考:林野庁

森林吸収量の対象となる森林

パリ協定の前身となる京都議定書によると、温室効果ガスの吸収に関わる森林は「森林経営」がおこなわれている森林に限られています。日本では国土の約7割を森林が占めていますが、すべての森林の吸収量を無条件に削減目標に活用出来るわけではありません。日本では森林経営がおこなわれている森林を、人の手で育てていく「育成林(人工林)」と自然の力で育てていく「天然成林」としています。つまり、適切に森林経営がおこなわれている森林を増やすことが、温室効果ガスの吸収量を増やすことに直結するのです。

参考:林野庁

森林吸収量を増加させる適切な森林経営

独立行政法人森林総合研究所でおこなわれた研究によると、適切に間伐した森林は、間伐していない森林と比較して、最終的な炭素吸収量が多い傾向があるという結果が報告されています。一方で、間伐後の樹木はそのままでは腐って二酸化炭素を放出するため、間伐後の適切な製材が必要となります。つまり森林吸収量を増加させるためには、間伐と製材を通じた適切な森林経営が重要な役割を果たすと言えるでしょう。

参考:独立行政法人森林総合研究所

森林・木材のイノベーションについて

2050年カーボンニュートラルの実現にむけて、適切な森林経営が重要であることに加えて、森林の活用や木材利用の拡大についてもさらなるイノベーションが必要となります。現在、開発されている新たな技術には、どのようなものがあるのでしょうか。

木材利用の拡大

2021年10月「都市の木造化推進法」が施行され、建築物の木造化に向けた対象が公共建築物だけでなく、民間建築物も含めるよう拡大されました。これにより非住宅や中高層建築物に向けた、木質建築部材や設計・施行技術の開発が進められています。非住宅に向けて構造計算が可能なJAS構造材や、中高層建築物で活用できるCLT工法などの普及が推進されていくことでしょう。

参考:林野庁

JAS構造材やCLTについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

JAS材とは?|補助金を含むメリットや活用事例を解説
CLTとは?集成材との違いや建築事例について解説

再造林の推進

森林経営を活性化するために現在、スマート林業の促進やエリートツリーの開発などによる再造林の推進もおこなわれています。スマート林業は、森林クラウドや林業機械の導入により、造林作業の効率化とコスト削減に効果があるとされています。それに加えて「特定母樹」から生産された、特に優良な苗木であるエリートツリーを利用することで、下刈り回数の削減や伐期の短縮により、造林コストの低減に期待が寄せられています。

参考:林野庁

また、林業とデジタルをかけ合わせたスマート林業も注目されています。気になる方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

スマート林業とは?技術で森林経営を効率化する新しい林業の形

森林・林業・木材産業に対する補助金

カーボンニュートラルの実現に向けて、森林・林業・木材産業に対しては「グリーン成長総合対策」に応じた補助金が交付されています。対象となる対策は大きく以下の6つに分けられ、林業の活性化や木材の安定供給・利用拡大などに向けられています。

  • 林業・木材産業成長産業化促進対策
  • 林業イノベーション推進総合対策
  • 木材の安定供給・利用拡大対策
  • 「新しい林業」に向けた林業経営育成対策
  • カーボンニュートラル実現に向けた国民運動展開対策
  • 林業・木材産業金融対策

参考:森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策補助金等交付等要綱

脱炭素先行地域での自治体の取り組み

日本で現在おこなわれている「脱炭素ドミノ」戦略において、取り組み内容のモデルとして選ばれた先行地域では、どのような対策がおこなわれているのでしょうか。その中で、特に森林資源を活用している地域をご紹介します。

群馬県上野村

森林面積が村の95%を占める群馬県上野村では、森林資源の活用と林業の再生を目指した取り組みをおこなっています。具体的には、未利用の間伐材を燃料として利用できるペレットの整備工場を整備するとともに、ペレットを利用できるボイラーやストーブなどの導入をしています。

このように村の主要産業である林業の振興を通じて、脱炭素に取り組んでいるところが特徴的と言えます。

参考:群馬県上野村

新潟県関川村

新潟県関川村では村中心部を対象に、太陽光・小型風力・温泉熱・木質バイオマスといった多様な再生可能エネルギーを活用した地域マイクログリッドの構築をメインに取り組んでいます。地域マイクログリッドは非常時でも安定的に電源供給可能なシステムです。

木質バイオマスの燃料には村内材が利用され、スマート林業の導入や間伐材を原料にした木質チップ工場の増設などと合わせて、林業の健全化と活性化に効果が期待できます。

参考:新潟県関川村

カーボンニュートラル対策に向けた企業の実例

カーボンニュートラル対策に向けては行政だけでなく、各企業や事業体の取り組みも始まっています。この章では企業や事業体の取り組みについて実例をご紹介します。

住友林業が目指す脱炭素の取り組み

建設分野を原料調達から居住や生活、解体まで含めたライフサイクル全体で考えた時に、排出される温室効果ガスの7割が居住や生活によって排出されると言われています。

再エネの活用でこの排出を抑制できるようになった現在、材料調達、加工や輸送、建築、解体など、居住・生活以外で排出される炭素の削減が課題となっています。住友林業ではパリ協定に先駆けて2011年から、脱炭素に貢献できる非住宅分野の施設における木造化・木質化に取り組んでいます。

参考:住友林業

東京の家と森を育てる多摩産材ブランド「TOKYO WOOD」

一般社団法人TOKYO WOOD普及協会は2022年、林野庁が主催する「森林×脱炭素チャレンジ2022」において優秀賞を受賞しました。一般社団法人TOKYO WOOD普及協会は東京多摩産材のブランド化に取り組む、多摩地区の川上から川下までの企業で構成されている団体です。

2020年、2021年におこなった多摩地区の森、約8haの間伐により年間42tの二酸化炭素吸収に貢献する一方、チーム体制で多摩産材による家造りを推進し、森林の循環利用を確立しました。

参考:PR TIMES

歩留まり重視の木材利用を推進する越井木材工業(株)

大阪にある越井木材工業株式会社では、丸太を製材する際に大きさに合わせて無駄なく木取りすることで、歩留まりを向上させる取り組みをおこなっています。歩留まりが向上することによって山元への利益還元と再造林へとつながり、持続可能な森林経営や脱炭素に向けての効果が期待できるからです。

さらに、歩留まりを重視する考え方に賛同する企業と共に、国産材供給プラットフォーム「KISM(キズム)」を立ち上げ、端材の活用にも力を入れています。元々は越井木材工業株式会社の社有林から始まった取り組みですが、現在では全国へと波及し始めています。

参考:林野庁

まとめ

植林と間伐を適切におこなった森林から得られる資源を最大限に活用することで、森林での温室効果ガス吸収効果と木材での炭素固定効果が得られます。また、木材は鉄などの材料よりも加工における二酸化炭素排出量が少なく、排出抑制効果もあるうえ、解体後も再生可能エネルギーとして利用できる特性も持っています。カーボンニュートラル達成のためには、持続的な森林資源の活用をともなった健全な循環社会の実現にむけて、より一層の努力が必要不可欠と言えるのではないでしょうか。

また、森未来では木材を用いてサステナブルな提案を得意としています。気になる方は、ぜひ、お問い合わせください。

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