サステナブル
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人類の活動が地球という大きな生命体に与える影響を客観的かつ科学的に評価する「地球(惑星)の限界=プラネタリー・バウンダリー」という概念が提唱され、SDGsの理解がますます浸透した現代。
その一方で、SDGsの言葉だけを知っており、依然として詳しい内容まで把握していないという人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は「なんとなく環境に良いことをする」「持続可能な社会にしていく」といった曖昧なイメージから脱却するために、環境に関連したSDGsについて詳しく解説します。
上記の方におすすめの記事となっていますので、ぜひご一読ください。
目次
SDGsとはSustainable Development Goalsの略で、「持続可能な開発目標」と呼ばれています。2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された、2030年を年限とする17の国際目標のことで、2001年に策定されたミレニアム開発目標のMDGs(Millennium Development Goals)の後継となる目標です。
前身のMDGsでは発展途上国向けの開発目標であったのに対し、SDGsは「誰一人取り残さない」という包摂性を孕んだ目標で、発展途上国だけでなく先進国を含む全ての国が取り組むよう求められています。
また、17の目標は「経済」「社会」「生物圏」の3階層に目標が分類されており、経済は社会を土台に、社会は生物圏を土台に成り立っているという構造をしています。この構造モデルはSDGsの概念を表すモデルとして広く認知されており、ウェディングケーキになぞらえ「SDGsウェディングケーキモデル」と呼ばれるようになりました。
環境問題に関連するSDGsの目標は、以下の4つになります。
これらは全て生物圏に分類される目標であり、経済、社会といったSDGsウェディングケーキモデルの上部に連なる目標の達成を鑑みても、全ての問題解決の基礎となります。
それでは各目標について解説していきます。
日本では蛇口をひねれば安全な飲用水が、家や施設、公園などに行けば清潔なトイレが整備されています。このような国は世界を見渡すとごくわずかで、日本の水事情は非常に恵まれているのです。
世界では約22億人が安全な水を確保できていないとされ、42億人が安全に管理されたトイレを使うことができていません。そのため、目標6の達成項目には以下のようなターゲットが示されています。
(参考:ユニセフプレスリリース)
集中豪雨や大型台風、干ばつといった世界中で頻発する自然災害の多くは、地球温暖化が引き起こす気候変動が要因となっています。この地球温暖化は、人類が経済活動を行うなかで生じる二酸化炭素が主な原因とされています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の5次評価報告書によると、気候システムの温暖化は疑う余地がないとされ、1950年以降に観測された変化の多くは数十年から数千年間にわたり前例がないものとしました。
世界の平均地上気温は1880年から2012年にかけて0.85℃上昇しました。この1℃にも満たない気温上昇によって、1902年から2010年の間に平均海面水位は19cmも上昇したとされ、僅かな気温上昇でも多大な影響が地球に及ぶことがわかります。
こうした状況をうけ、目標13の達成項目には以下のようなターゲットが示されています。
(参考:Fifth Assessment Report (IPCC))
水の惑星とも呼ばれるように、地球表面の大部分は海水で覆われています。その海が滞ることなく循環することによって、気温・気候が制御され、多くの生物が支えられています。一方、水産資源の乱獲によって、世界的にみると魚資源の状況は悪化の一途を辿っています。
国際連合食糧農業機関(FAO)がまとめた資料によると、過剰に漁獲されている資源の割合は1974年から2017年にかけて10%から34.2%まで増加しました。一方、2017年段階で十分に利用できる漁獲資源は6.2%で、限界点まで利用している漁獲資源は59.6%となっています。なお、生物学的に持続可能なレベルにある資源の割合は、6.2%と59.6%を足した65.8%となります。
こうした状況をうけ、目標14の達成項目には以下のようなターゲットが示されています。
(参考:The State of World Fisheries and Aquaculture 2020(FAO))
人類は海だけでなく、いうまでもなく生活圏である陸からも恩恵を受けています。生きるための食糧、災害から身を守るための建物、息をするための空気といった、私たちが生命の維持活動ができているのはこの恩恵なくしてありえません。
これらは、地球という大きな生命体が途方も無い時間をかけて形成した、種の多様性を前提とした生態系サービスですが、2015年には2万3000種の植物、菌類、動物が絶滅する可能性が危惧されています。
地球の歴史上、人間の活動によって種の絶滅が通常よりも1000倍の速さで進行しているといわれています。
こうした状況をうけ、目標15の達成項目には以下のようなターゲットが示されています。
(参考:国際連合広報センター)
現在、地球環境問題は以下の7つに大別されています。
以下には、地球環境問題の現状とその事例について、いくつかご紹介します。
(参考:外務省 ODAと地球規模の課題)
海洋汚染の原因は以下の3つになります。
化学繊維も含めた世界のプラスチックの生産量は1950年から2015年の間に200万トンから3億8000万トンに急増し、この間に製造された樹脂と繊維の総量は78億トンにも及びます。また、現在、生産量の累計は約83億トンに達していると推定されている一方で、2015年段階では63億トンものプラスチックごみが発生し、そのうちの約9%が再利用、12%が焼却処分、79%が埋立地あるいは自然環境に流出したと推計されています。
(参考:SCIENCE ADVANCES Vol. 3, Issue 7 )
海上保安庁調べによると、2021年における国内の海洋汚染件数は493件(前年比21件増)であり、そのうち油による海洋汚染は332件で、廃棄物は139件、有害液体物質は14件、その他8件と報告しています。この海洋汚染件数と油による汚染件数は過去10年間で最も多くなっており、油排出の主な原因は作業中の取扱不注意、廃棄物による海洋汚染は一般市民や漁業関係者による不法投棄となっています。
国内の工場・生活排水による富栄養化対策を含む水質改善は1960年後半以降、産業廃水についてはかなり改善が進められているものの、生活排水については罰則がなく、対策は難しい現状にあります。
(参考:環境省)
1990年から2020年までの間に、年平均約592万ヘクタールもの森林が消失していっています。計算上、1分間に約112㎡相当にも及びます。森林減少は、農地への転用や違法伐採、森林火災などが原因で、主に熱帯雨林帯の減少が顕著になっています。
このような地域は、社会的・経済的な事情が絡みあっており、当該国のみで森林減少を解決するのは非常に困難とされています。すなわち、国際社会が協力して森林整備を進めていく必要があるのです。
(参考:森林・林業学習館 世界の森林減少速度)
ここまで、環境問題にかかわるSDGs目標の現状と、その達成が重要となってくる理由について解説してきました。ここからは、その達成に向けて日本企業が行っている取り組みを3つ紹介していきます。
イオングループは、「イオン サステナビリティ基本方針」を策定し、「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」という基本理念のもと、「持続可能な社会の実現」と「グループの成長」の両立を目指す指針を宣言しています。
この取り組みは「環境」と「社会」から構成されており、詳細は以下になります。
環境面の重点課題 | 社会面の重点課題 |
脱炭素社会の実現 | 社会の期待に応える商品・店舗づくり |
生物多様性の保全 | 人権を尊重した公正な事業活動の実践 |
資源循環の促進 | コミュニティとの協働 |
グループであるイオンリテール株式会社では、食品廃棄量の削減を、イオンモール株式会社では分別ゴミの「見える化」によるリサイクル率の向上など、「リデュース・リサイクル」を推進し、取り組んでいます。
(参考:イオングループ)
TOTO株式会社は、トイレや衛生用品、浴槽などの製造、販売をしている、「水」に深くかかわる企業です。まさに、SDGs目標6の「安全な水とトイレを世界中に」との親和性が高い日本を代表する企業といっても過言ではないでしょう。
そんなTOTOが打ち出している商品は、薬品や洗剤を使わず、水に含まれる塩化物イオンを電気分解した「キレイ除水菌」を使用するネオレストNXや、少量の水で効率的に洗浄可能なトルネード洗浄など、汚水の排出、節水機能を進化させたラインナップが揃っています。
また、「TOTO水環境基金」などの社会貢献活動を通じ、貧しく社会的に取り残されている人々や、アジアで自然災害に見舞われた人々への支援も行っています。
(参考:TOTO株式会社)
日本航空株式会社(JAL)は、省燃費かつ低騒音で、既存機と比較してCO2の排出量を15〜20%程度削減できる省燃費機材の更新を行っています。具体的には2019年9月にエアバスA350型機を国内線に、同年10月にはボーイング787型機も国内線に就航させています。
また、ユニリーバ社と英国WWFが、安全性や栄養価などの観点から提唱される持続可能な「未来の食材50」を中心に、狐野扶実子氏監修のもと機内食を展開しています。
(参考:日本航空株式会社)
2015年9月にSDGsが国際目標に採択され約7年が経過しました。SDGs達成に向けて各国が取り組むなか、当初掲げた目標に対しどの程度達成しているのでしょうか。以下には、ベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(以後、SDSN)が評価した、各国の達成度を示した2022年の世界順位と、日本に残された環境問題にかかわる課題について解説します。
次の表は、ベルテルスマン財団とSDSNが、2030年に向けたグローバル目標の進捗状況を把握するために発表した報告書の結果になります。
順位 | 国名 | 点数 |
1位 | フィンランド | 86.5点 |
2位 | デンマーク | 85.6点 |
3位 | スウェーデン | 85.2点 |
4位 | ノルウェー | 82.3点 |
5位 | オーストラリア | 82.3点 |
6位 | ドイツ | 82.2点 |
7位 | フランス | 81.2点 |
8位 | スイス | 80.8点 |
9位 | アイルランド | 80.7点 |
10位 | エストニア | 80.6点 |
11位 | イギリス(英国) | 80.6点 |
12位 | ポーランド | 80.5点 |
13位 | チェコ | 80.5点 |
14位 | ラトビア | 80.3点 |
15位 | スロベニア | 80.0点 |
16位 | スペイン | 79.9点 |
17位 | オランダ | 79.9点 |
18位 | ベルギー | 79.7点 |
19位 | 日本 | 79.6点 |
20位 | ポルトガル | 79.2点 |
報告書の結果によると、日本の順位は世界163ヶ国中19位となっています。相対的にみればかなり上位にランクインしていますが、報告書において「深刻な問題」とされる目標が昨年より1つ増えたのと、その目標の半分が環境問題にかかわる目標となっています。
具体的な「深刻な問題」として報告された目標は以下の6つになります。
冒頭で解説したとおり、環境問題にかかわる目標は、目標13、14、15になります。
これらは、日本のCO2排出量が2018時点で約10億8000トンと世界で5位の排出国であること、日本の海岸に多くのプラスチックごみがあること、野生動物が絶滅の危機にひんしていることなどが挙げられます。
国家レベルで取り組む課題を私たちの生活に落とし込むと、一体どのようなことができるでしょうか。本章では環境問題対策にかかわるSDGsの取り組みについて紹介します。
日本は小さな島国で国土が小さいにもかかわらず、多くのCO2を排出しています。そういったなかで、私たちが気軽にできる行動の一つが車の代わりに公共交通機関や自転車を利用することです。
また、通勤自体が不要なテレワークの推進も効果的かもしれません。
日本は水に豊かな国であることは前述しましたが、その水を大切に使うこともSDGsにつながります。世界では、水不足に悩んでいる人たちも多く、また海洋汚染の課題も残されています。
今一度、生活の中で節水を意識することが重要でしょう。
2020年度の試算によると、食品ロスの発生量は約522万トンで、うち事業系は257万トン、うち家庭系は247万トンとなっています。なお、食品ロス量の定義は本来食べられるにもかかわらず廃棄されている食品の量とされており、SDGsのターゲットとしても2030年までに世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させることが盛り込まれています。
そのため、必要な分だけ食べ物を買う、期限が近いものから購入するといった食品ロスを少なくするようにしましょう。
(参考:環境省)
今回の記事では、SDGsと環境問題について解説しました。多くの研究結果からも分かるように、地球はまさに未曾有の状況へと向かっています。便利な生活と引き換えに、その基盤となる地球環境の悪化をもたらすこととなった今こそ、持続可能な社会を真剣に考える必要があるのではないでしょうか。
ぜひ、本記事がそのきっかけになれば幸いです。
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