木造木質化が注目される理由とは?背景やメリット・デメリットを押さえよう!国内の事例も紹介

eTREE編集室

近年、これまで木造が採用されてこなかった非住宅・中高層建築物において、木造木質化が推進されています。
この記事では、基本情報をインプットできるように、木造木質化の意味や注目されている理由、メリット・デメリットなどを解説します。木造木質化が気になっている人、これから挑戦しようとしている人は、ぜひ最後まで読んでみてください。

木造木質化とは「建物の骨組み・内装・外装に木材を使うこと」

建物の骨組みとなる構造部分に木材を使うことを「木造化」、壁・床などの内装や外壁に木材を用いることを「木質化」といいます。
国は、平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を制定し、公共建築物への木材利用を推進していきました。

その後、令和3年に同法は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に名称変更され、木造木質化の対象が公共建築物から建築物一般に拡大されました。
建築物に対するさらなる木材の利用が、国を挙げて進められようとしているのですが、その背景を確認しておきましょう。

木造木質化で期待されること

温暖化や生物多様性の喪失、森林破壊、海洋汚染など環境問題の解決は、世界的に喫緊の課題だと認識されています。
我が国も、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すなど、持続可能な社会への転換に取り組んでいますが、その手段の一つとして、木造木質化が推進されています。

どのような効果を期待されているのか、具体的にみていきましょう。

国内森林資源の循環利用

建築において木材を積極的に利用することは、国内森林資源の循環利用を促すと考えられています。
日本には、戦後植林され伐期を迎えた森林資源が豊富に存在していますが、その活用は十分ではなく、放置された人工林が、水源涵養や土砂災害防止など本来の機能を発揮できない問題も発生しています。

木造木質化によって木材需要を喚起し、「伐採→利用→植林→育林」の循環を回すことで、健全な森林の育成と持続可能な森林経営を実現することが望まれているのです。
また、有限な資源である鉄鉱石や砂を材料とする鉄やコンクリートの替わりに、持続可能な資源である木材を使うことは、環境負荷の軽減にもつながるでしょう。

カーボンニュートラルな社会の実現

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を近郊にし、実質的にゼロにすることです。
2050年までのカーボンニュートラルを目指す日本において、木造木質化された建築物は、都市部における「第2の森林」として炭素の貯蔵庫となることが期待されています。
さらに、伐採後の林地を適切に更新すれば、二酸化炭素の吸収源となるでしょう。

また、木造は、材料製造から建設時にかけての二酸化炭素排出量が、鉄骨造・鉄筋コンクリート造の4〜7割程度とされています。
建物を木造木質化することは、二酸化炭素の排出抑制・吸収促進につながるため、カーボンニュートラルな脱炭素社会実現の一助となるのです。

SDGsの達成・ESG投資への対応

2015年に国連で掲げられたSDGsの達成は、企業活動にも求められます。
林野庁が国内企業に行ったアンケートでは、従業員1,000人を超える企業の4分の3超が、経営戦略にSDGsを組み込んでいるという結果が示されています。
また、拡大するESG投資を背景に、環境・社会・ガバナンスに考慮した経営も、今後避けては通れないでしょう。

企業にとって必須になりつつある、SDGsの達成やESG投資への対応としても、木造木質化は注目されています。
例えば、大きな規模が見込まれる建築分野での木材利用は、SDGsのターゲットの一つ「持続可能な森林経営」を後押ししますし、先述した通り、カーボンニュートラルにも貢献します。

木材利用の余地が大きい非住宅・中高層建築

2022年に着工した建築物の床面積ベースの木造率は、低層住宅で80%以上である一方、低層非住宅建築物は14%程度、4階建て以上の中高層建築物は1%以下です。非住宅および中高層建築の低い木造率は、今後の木材利用の余地が大きいと捉えることができます。

今後人口減少によって、住宅着工数は減ると考えられるので、非住宅・中高層建築の木造木質化を進めることで、新たな木材利用の需要創出が期待されているのです。

用途や目的別での木材利用のメリット・デメリット

建築に木材を利用する際に、メリット・デメリットを知っておくことは大切です。用途別・目的別に、木材の主要な特徴を解説するので、参考にしてください。

材料として

木材は、材料として次のようなメリット・デメリットがあります。

メリット:軽い・加工しやすい・軽い割に強度が高い・断熱性に優れる
デメリット:腐りやすい・蟻害を受けやすい・狂いが生じやすい・割れやすい・品質の均一性が低い

無数の細胞からなる木材は、多数の空隙のなかに空気を含むので、軽さや断熱性に優れています。

天然物であるが故に避けられないのがデメリットに挙げたような特有の扱いにくさですが、集成材や積層材など木材の弱点を抑えた木質材料が存在するので、選択肢の一つとして覚えておきましょう。

設計・建築において

設計や建設作業の際に関わってくるメリット・デメリットは、次の通りです。

メリット:基礎工事費や地盤改良工事費を抑えやすい・工事期間が短い
デメリット:規模と品質によってはコストが高い・防耐火に工夫が必要・木材手配に時間がかかる

構造材に木材を使う木造建築は、躯体の重量が軽いため、基礎工事・地盤改良工事に手間がかからずコストカット・工期の短縮ができる場合が多いでしょう。

ただし、建物の規模や材料の品質によっては、他の構造よりコストが高くなることもあるので注意が必要です。
また、防耐火対応には、設計や材料選定において工夫や知識が必要になったり、工業製品ではないため材料の手配に時間がかかったりするデメリットもあります。

利用者に対して

木造建築や木質空間を利用する人には、次のような影響があると考えられています。

メリット:リラックス効果・クッション性による怪我防止・調湿や消臭など快適な室内環境
デメリット:変色を劣化と感じる場合あり・傷つきやすい・メンテナンス頻度が高い・遮音性能が低い

内装の木質化は、人間の心理面や身体面にプラスの影響を与えたり、快適な室内環境を保ったりすることが明らかになりつつあります。

一方で、経年変化による変色を味ではなく劣化ととらえたり、傷のための部分交換や再塗装などメンテナンスに手間がかかる、と感じたりする人もいるでしょう。

また、木材の遮音性能は高くないので、設計・施工時に防音対策への配慮が必要です。

日本国内の有名な大規模木造建築3選

この章では、大手ゼネコンが手掛けている、国内の大規模木造建築に関して、ここ数年の事例を紹介していきます。

フラッツ ウッズ 木場|都市中高層木造の先駆け

2020年2月竣工の「フラッツ ウッズ 木場」は、12階建て・252戸の単身寮です。

竹中工務店が、都市部での木造木質化実現のために開発した、防耐火・耐震をはじめとする複数の次世代木造技術を初めて適用した建物として注目されました。

2020年度のグッドデザイン賞も受賞しています。

HULIC &New GINZA 8|日本を代表する商業地・銀座に立つ木造建築

2021年10月竣工の「HULIC &New GINZA 8」は、木造と鉄骨造のハイブリッド構造を採用した、12階建て商業施設です。

「銀座の中心に森を作る」という開発コンセプト通り、木材を効果的に活用した特徴的な外装が人々の目を引きます。林業の活性化と地方創生も視野に入れ、福島県産のスギをはじめとした国産材を積極的に活用している点も特徴です。

Port Plus|純木造で耐火高層建築を実現

大林組が2022年4月に完成させたのは、純木造耐火建築の11階建て研修施設「Port Plus」です。

地上構造部はすべて木材のため、二酸化炭素排出量の削減と工事の際の粉じん・騒音の抑制を実現しています。高層木造の耐火性と耐震性に対する課題を独自技術によって解決し、新しい都市木造建築のあり方を提示した建築といえるでしょう。

木造木質化への補助金|所轄は林野庁・国土交通省から自治体まで

建築物の木造木質化には、さまざまな補助事業や制度が存在し、管轄省庁も林野庁、国土交通省、文部科学省、環境省と多岐にわたります。林野庁が、木造木質化に関わる補助事業などを「建築物の木造化・木質化に活用可能な補助事業・制度等一覧」として省庁横断でまとめているので参考にしてください。

そのほかに、地域材を使った建築に補助金を出す自治体も珍しくありません。木造木質化を検討しているなら、利用できる事業や制度がないか、行政窓口に問い合わせてみましょう。

まとめ

建物の木造木質化は、国内森林資源の有効活用やカーボンニュートラル、企業経営などにプラスの影響を与える手段といえるでしょう。

建築分野での木材活用は、国を挙げて進められており、大きな需要も期待されることから、今後も発展していくと考えられます。将来を見据えれば、これから木造木質化に挑戦する意義は大きいかもしれません。

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