サステナブル
この記事をシェアする
環境問題を考える際に、LCAという言葉を耳にすることが増えています。中には、LCAとはどういうものかを知りたい、自社でLCAの活用を検討している、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回はLCAとは何か、ということに加え、海外や日本企業の実例、規制や課題についても解説します。
目次
LCAとはライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)を省略した言葉で、製品の原料取得から廃棄に至るまでの、一連のライフサイクルにおける環境負荷や影響を評価する方法です。製品使用時の環境負荷については分かりやすく表示されていることも多いですが、LCAは製品が生まれる瞬間から廃棄後までをトータルで考えた評価手法であることがポイントです。
この手法はISOにおいて、ISO14040シリーズとして手順等が規格化され、信頼性の高いものとなっています。
LCAで評価される環境負荷の要素はインベントリ分析と呼ばれ、製品やサービスに対して投入される資源やエネルギーといったインプットと、生産によって排出される環境影響や製品、排出物などのアウトプットの両面を明細化したものです。
LCAでは、その分析から導かれる評価を利用して、環境負荷の少ない生産方法への転換をおこなうことを目的としています。
LCAでは、環境負荷をデータ化・可視化することで改善への対応策を見つけられるのが大きなメリットです。環境負荷に関する代表的な指標には、CO2と温室効果ガス(GHG)の排出量があり、それぞれ、以下の式で算定します。
LCAを算定する計算ツールは、(一社)サステナブル経営推進機構が販売している「MiLCA」が代表的なものです。MiLCAでは(一社)産業環境管理協会がリリースしている「IDEA」をデータベースに使用し、原材料から廃棄までのシナリオを入力することで、業界を問わず環境負荷を定量化できます。その他、業界によってはExcelなどで使用できる独自の計算ツールが作成されています。
LCAの手法は、1969年にコカコーラ社の委託で実施された「飲料容器に関する環境影響評価に関する研究」が原型とされています。この研究は、容器の違いによる資源消費や、環境への排出を定量的に比較するために行われたものです。
生産段階では少なくても、処分の段階での排出量が多ければ、全体としては環境負荷が大きくなる場合があります。LCAを活用することで、製品のライフサイクル全体における環境負荷が明確になり、より環境に配慮した製品やサービスへの転換が可能となるのです。
日本では2001年に施行された「循環型社会形成推進基本法」で、生産者が使用後までの環境負荷低減に一定の責任を負う、という考え方が明記されました。
LCAの活用では、海外の方が先を行く取り組みをしています。特に木材の利用に関しては、すでに木造建築の高層化などが実現しているのが現状です。この章では、実際に行われている取り組みをご紹介します。
フィンランドは国の面積の73%を森林が占める、まさに森林大国です。歴史的な木造建築が多く残るフィンランドでは、2010年代から森林利用促進に関する法整備やプログラムを充実させてきました。その中で、現在進行中であるヘルシンキのWOOD CITYプロジェクトでは、開発地区の街区全体を木造、木質化することで木材使用の促進をしています。森と都市をつなぐサプライチェーン強化を推進していることも注目すべきことでしょう。
さらに、2025年には建築確認申請時にLCAを義務化する予定で、炭素固定能、カスケード利用可能といった木材の特質を享受できる木造が、優先的に選択されるようになるかもしれません。
ロンドン市内で再開発が進むテムズ川南岸エリアで、現在、木造6階建ての環境配慮型オフィス開発事業が進行中です。2024年の完成を目指したプロジェクトでは、60年間のネットカーボンゼロを目指しているのが特徴です。
省エネ・創エネに加えて、森林資源の活用や木材による炭素固定能力も合わせたLCAの考え方により、建物使用中の炭素排出を加算しても、ネットカーボンゼロが実現できるこの建築は、今後の事業展開が期待できる手法と言えるでしょう。
日本国内では、現在「SuMPO環境ラベルプログラム」の取り組みを通じて、LCAの普及拡大に向けて動いています。また、大型の木造建築を可能にする技術の研究も進められており、今後の普及拡大が期待できます。
エコリーフ環境ラベルプログラムは、(一社)サステナブル経営推進機構が運営するプログラムです。事業者は、LCAの手法を用いてさまざまな環境負荷の低減にむけた努力を表示でき、消費者は、エコリーフ環境ラベルが表示された商品を購入することで環境負荷削減に貢献できます。
2022年には、後述するカーボンフットプリントプログラムと統合し「SuMPO環境ラベルプログラム」として、LCAの活用を検討する事業者が運用しやすいプログラムとなりました。
カーボンフットプリントは、地球温暖化防止に特化して推進するためのプログラムとして2008年の規格制定を経て始まりました。LCAの中でも温室効果ガスの排出量のみに特化し、その軽減を図ることを目的としています。審査を経た製品はCFPマークを表示でき、消費者が日常的に選択的購入をすることで、温暖化防止を促進する狙いです。
現在は、エコリーフ環境ラベルプログラムと統合し、気候変動に対する単一領域を開示する宣言として運用されています。
炭素固定効果の高い資材として関心が高いのが木材です。現在、高層木造建築にも応用可能な技術としてCLTの活用が進められています。CLTはCross Laminated Timberの略で、ひき板を重ねる際、繊維の方向が直交するように接着した大型のパネルのことを指します。CLTは建築材としても重量が軽く、強度が高いためさまざまな用途で使えるうえ、工期の短縮にも貢献でき、解体後も有効利用ができるとして、活用が期待されています。
実際、国産材でCLT工法を用いた木造学校建築物のGHG排出量は、同仕様での建築を想定したRC造、S造と比較して削減できることが報告されています。
各国で脱炭素化の政策が拡がりを見せるなか、さまざまな業界でLCAの活用を主軸とした法整備や認定制度への転換が進んでいます。この章では特に自動車産業における、LCAを考慮した取り組みについて取り上げます。
トヨタ自動車ではクルマ作りの基本理念として「トータルクリーン」を掲げています。走行段階だけでなく、生産から廃棄までの全ライフサイクルで排出するCO2や温室効果ガスの総量を低減する取り組みは、以下の4つの柱から構成されています。
これらの取り組みの結果、トヨタ自動車では全車で「平成30年基準排出ガス50%低減レベル」の認定を国土交通省から取得しています。
中国では2060年までにカーボンニュートラルを達成することを政策目標に掲げて、電気自動車を核とする新エネ車の生産・販売に力を入れてきました。しかし、インフラ整備の遅れから販売が伸び悩んでいることに加え、新エネ車で使用する部材を生産する際のCO2排出量の多さから、ハイブリッド車の普及も含めた政策へと軌道修正をおこないました。
この背景は欧州を中心に検討されている、LCAを考慮した規制を見据えてのこととも言われています。
森林資源が豊富な日本では、木材の有効活用がLCAの評価を高めるポイントとなります。木材は育成と利用を循環させることで、カーボンニュートラルの達成に貢献できる資材です。この章では、日本企業の木材を活用した取り組みをご紹介します。
住友林業株式会社では、2022年8月に建築時のCO2排出量を見える化するソフト「One Click LCA」の日本語版を発売しました。建築物のCO2排出量は70%が暮らしの中で、30%は建築時に発生すると言われています。
ZEHの普及により暮らしの中で発生するCO2は削減されつつあることから、建築時の30%の削減が現在の課題となっています。「One Click LCA」を利用することで、建築にかかる全てのCO2排出量を効果的に算定、削減への取り組みに反映できるのです。
参考:脱炭素設計のスタンダード化に向け「One Click LCA」日本語版発売
大東建託株式会社では2021年、日本で初めて脱炭素住宅「LCCM賃貸集合住宅」を開発し、建設を開始しました。「LCCM賃貸集合住宅」はZEHの規格で断熱効率をあげ省エネを、太陽光発電の効果を最大限に引き出す片流れ屋根で創エネを、そして2×4材の製材時の乾燥過程で再生エネルギーを使いCO2排出量を削減しています。
その結果、建物のライフサイクルを通じてCO2の排出量をマイナスにできる脱炭素の住宅になっているのです。
広島県三次市にある一場木工所は、県立広島大学の小林准教授とともにLCAに関する共同研究を実施、研究の一環として木製玩具「ひなたぼっこドミノ」について、エコリーフ環境ラベルおよび、カーボンフットプリントを取得しました。
この研究では、小規模の事業者が行政の支援を受けながら、県立広島大学との共同研究で、学術的な立場からの正確な評価を行いました。産学官連携事業として、今後のLCAの普及に大きな意味を持つ事例と言えるでしょう。
木材のLCA活用に向けた課題として、林業を行う川上の事業者と加工や流通を行う川下の事業者の間での連携強化があげられます。現状、日本の木材サプライチェーンでの運用が非効率である結果、木造建築の横架材は海の向こうからやってくる輸入材がデファクトスタンダードとなってしまいました。
地球温暖化対策としての木材利用を促進するためには、日本の森林で育成されている木材を日本国内で活用する手法を検討する必要があります。必要な場所に、必要な量の木材を、安定的に供給するために、川上から川下への連携が欠かせないのです。
環境負荷低減への対策として世界的に普及しはじめているLCAについて、世界の実例とともに日本の現状や実例についてもご紹介しました。LCA活用を促進するには製品のライフサイクルのみならず、業界全体の循環を整備する必要があると言えるでしょう。
林業とそのサプライチェーン全体で、日本国内での「地産地消」を実現することが環境負荷軽減の手かがりとなるのではないでしょうか。
森未来では、全国の木材事業者とネットワークをもっています、そのため、各都道府県の地域材調達に関するご要望にお応えすることが可能です。気になる方は、ぜひeTREEをチェックしてみてください。
こちら▷eTREE
無料の会員登録していただけると、森林、製材品、木質バイオマスから補助金・林野庁予算の解説
など、あらゆる「木」にまつわる記事が全て閲覧できます。
おすすめの記事